西穂もやっぱり穂高

−−西穂高単独スケッチ行 冨山

Sun, 22 Aug 1999 21:04:24


西穂もやっぱり穂高             1999.8・9-10                  冨山八十八
後藤さんの報告には私のことに触れて、西穂を越してジャンダルムを見てきたとあった
が、あれは私の勘違いでウソ。本文で訂正しておきます。それに西穂ならロープウエイ
で一気に頂上までと誤解していて、ひどい思いをしました。甘くみてはいけない、西穂
もやっぱり穂高だったと再認識させられた。しかし久々のアルプスはいい。念願のスケ
ッチもできたし。それにしても単独は淋しい。やはりテンで、暮れなずむ山々を眺め、
静かに水割りをやりたいところ。

後藤さんと計画していた太郎平からの縦走は、小生の不整脈のために断念した。そこ
で西穂ならロープウエイでスーッと登れることであるし、体への負担も少なかろうと、
私は一人で西穂へ出かけ、下山して新穂の温泉で後藤パーティと合流することにした。
  8月9日
「あずさ」の指定席をとっていたのが、八王子で予定の「あずさ」に乗り遅れ、30分
ほどて待って「スーパーあずさ」に間に合った。自由席は立錐の余地がない大混雑。
さいわいこの特急は八王子の次が甲府だから1時間の辛抱である。というもののこの
列車、なぜかドアの窓が通常の1/3ぐらいしかない。先客の若い女の子がその窓に
かじりついているので全く外が見られない。それでも甲府でドーッと下車した。この
スーパー特急は松本着の時間が私が乗り遅れた特急と10分しかちがわない。
駅で行動食を買おうとしたが売っているところがない。時間もないのでままよと、駅
前の道路を横断して「松本バスセンター」へ急ぐと、これがスーパーと一緒のビルに
なっていて、地階で何でも揃う。
11時発の「高山センター」行きに乗った。道路が混んでいて、20分遅れで平湯に着い
た。ここから新穂への連絡バスは出発してしまっていて、次のバスまで40分ほど待つ
ことになる。平湯―新穂間のバス連絡が悪い。松本からのバスが到着する5分前に新
穂行が出てしまう。次の便まで1時間待ちとなる。そこで事前に濃飛バスに問い合わ
せたところ、のんびりした声で、今はシーズンだからバスは道路混雑で遅れるから大
丈夫だという返事だった。これを聞いて、てっきり高山から来る新穂行きのバスが遅
れて間に合うのだと思い込んでいたら、実際は松本発のバスが遅れるとの意味だった。
今後は十分に注意する必要がある。
さいわいロープウエイの方はシーズンでピストン運転していたから助かった。時刻表
通りだと1時間に2本である。2階建てロープウエイなるものに初めて乗った。1階も2
階も眺める景色に関係はないと思うが、やはり2階に人気がある。とにかく一気に2,
100m、ガイドの説明によれば笠ケ岳の南に連なる錫丈岳の頂上と同じ高さまで連れて
いってくれる。車中から槍と北穂が眺められた。このロープウエイの下がスキーコー
スになっていて、頂上駅から新穂まで6kmあるとガイドが言っていたから、梓好みの
コースってことになる。
駅に着いたのが3時10分、早速歩き出す。下山してくる家族ずれや中高年者は多いが、
登る者はいないようだ。久々の山で興奮気味でペースがわからない。歩きながら水を
入れてこなかったことに気がついた。医者からは汗をかいた分だけ水分を補給しろと
いわれている。血液の水分が減っている時に不整脈が起きると、血栓を起こしやすい
からだ。おまけに今朝は出かけるときから脈が乱れていた。水筒は空だがウイスキー
は500ml瓶が入っている。もういつもの調子じゃだめなんだ注意しなくてはと思って
いたら水場があった。歩き出してから30分ぐらいだ。トユで受けた水がちょろちょろ
流れていて、「水飲めます」と小さい立札もある。
そこからどうやら登りとなった。道端に深山アキノキリンソウが咲いている。こうい
うところによくある御前橘は見当たらない。白い10枚の花弁を広げたツメクサもたく
さん咲いている。樹林帯が切れて木道が現われると眼の前に西穂山荘があった。木道
の傍に白山フウロが咲いている。
北側の入口へ廻ると眼前に霞沢岳と六百山が立ちはだかっている。すぐにもスケッチ
したいが、はやる心を押さえてとにかく受付をした。4時20分だった。夕食は5時半
だからあまり時間がない。
山荘前のテン場に腰を下ろして霞沢岳をスケッチした。涸れ沢が何本も縦縞のように
山肌を区切っていて、山容の急斜面ぶりがわかる。1枚画き上げて、玄関横の休憩室
へ入った。生ビールがジョッキ1杯900円とある。汗も引いてビールでもないので酒
にする。1合缶が500円。何と出てきた酒は「岩波」。これは酒を知っとると嬉しく
なる。池田さんが愛する松本の銘酒である。東の窓に霞沢、南の窓に焼岳を眺めなが
らじっくりと酒をやる。少々隣のテーブルのツアー客が喋っている話題が気にくわな
かったが。
夕食は5時半。私はあまり山小屋に泊まったことがないので、立派な夕食のおかずに
感心した。メインはトンカツである。小型コロッケ大だったが。山小屋の食事も立派
なものですね、向かいの中年男に語りかけると彼は、これで普通です、冷奴が出たと
ころもあるし、だいたい北の小屋は南と較べて1000円高いということだった。
まだ6時である。だれかと暮れなずむ山を眺めながら水割りをやりたいと思ったが、
だれも相手がいない。笠ケ岳の向こうに沈む夕陽をながめシャッターを何枚か切った。
食堂でツアー客に若い女性のガイドがスライドでこの山で彼女が撮った花の説明をや
っていた。それを見ると、どうやら私が同定したキリンソウ、ツメクサ、ハクサンフ
ーロは合っていた。
部屋に入ると私が案内されたフトンには先客がねていて、フトンは3人で2枚だという。
彼は京都の亀岡から車できたという50過ぎの山慣れた男で、しばらく話した。お互い
緊張して体を固くしているから目が冴えて寝つけない。誰も同じか鼾が聞こえない。
  8月10日
朝食は2番手の5時半から。食堂に入ると正面の窓いっぱいに笠ケ岳が朝陽に輝いてい
る。
6時10分、山荘を出た。遅い出発で登山道にあまり人はいない。道のそばに花がお多
福豆くらいのホソバトリカブト。丸山から振返ると焼岳が朝陽を浴び、笠ケ岳にはこ
の山稜の影がかかっている。腰を下ろして焼岳をスケッチする。笠も見事であるがち
らは帰路のこととする。

焼 岳

登山道の正面に立ちはだかる独標をよじ登る。大勢人が休んでいるのを横目に進むと、
今度は岩稜の下りである。そこから稜線上にコブのように連なる岩稜の登り下りが続
く。だんだん息が切れてきた。どれかは巻いているだろうとの期待は裏切られ、どの
コブもよじ登って、今度は岩を手に下ることになる。とにかく息切れが激しい。基礎
体力の不足をイヤというほどに自覚させられる。
足を置こうとした岩にイワツバメがいるので驚いた。花は相変わらずイワツメグサと
キリンソウが多く、それにイワギキョウ(これは私もタテヤマリンドウと思っていた
が、帰って本を見るとイワギキョウのよう思われる)。トウヤクリンドウと思われる
ものはどれもこれも蕾である。
ヒイヒイ、ハアハアの状態でようやく西穂の頂上へ着いた。10時である。スケッチの
時間を除いても山荘から3時間もかかっている。昨夜同じフトンで寝た亀岡の人がい
たので挨拶し、休むことなく奥穂へのルートを少し進んだ。降口に若いパーティが休
んでいたので、止む無くもう少し進んで腰を下ろし、早速目の前に聳える岩峰のスケ
ッチにかかった。
この岩峰をジャンダルムと思いこみ、登ってくる途中からずっと注目していた。稜線
にかかったガスが早い勢いで前穂から奥穂・北穂へ流れ、穂高の稜線も槍も隠れてい
た。そのガスがときどき前へ廻ってジャンダルムと思っていた岩峰を隠すのであるが、
いまはそのガスがとれて岩峰が全貌を現しているのだ。
ところで私がジャンダルムと思っていた岩峰は、後ほどしっかり地図を見ると間ノ岳
らしい。その前衛の低い岩峰が赤岩岳か。帰って「梓会報」の「西穂高・奥穂高縦走」
報告を読み返すと、確かに手前が赤岩岳で後のそれよりも高いのが間ノ岳である。西
穂からは天狗の頭もジャンダルムも見えないと思われる。あるいはガスに隠れていた
のか。縦走をやったメンバーの意見を聞きたいところである。

西穂稜線の岩峰

案の定彩色にかかるとガスが間ノ岳の頭部にかかり、下の方へ延びてきた。しばらく
ガスの晴れるのを待った。後の方で、これは落ちたら駄目だね、との声が聞こえる。
足元をみると飛騨側にすっぱりと切れ落ちている。急に恐怖感が出てきた。時計をみ
ると11時。ガスは一向に晴れそうにないので引き上げることにした。山頂の人はだい
ぶ減っていた。
山頂からの下りで早速詰まった。下りも結構時間がかかる。恐竜の背中のコブのよう
に小岩峰が連なって徐々に高度を下げていっている。左に梓川あ〜右に蒲田川あ〜と
鼻歌混じりに歩いていると岩に蹴躓いた。危ないと気を引き締めなおす。少し登りに
かかると息が切れ、ノロノロ、フラフラとなる。。一人歩きは気楽だが緊張感がなく
ていけない。若者が後からやってきたので道を空ける。近頃珍しく礼儀正しく礼をい
ってリズミカルに下って行った。それを見てそうだと、こちらも調子をとってリズミ
カルに下るが、登りになるとたちまち息が切れてしまう。
そんな調子でいくつか上り下りをやっていると「ピラミッド」と標識が立っていた。
そこから2つほどで「独標」の看板があって、「ここから先は危険。勇気をもって引
き返せ」と書いてある。往きにはまったく気がつかなかった。猛烈に腹が減ってきた。
独標から少し下がってスケッチした。松本のバスセンターで買ってきたパンを水で流
し込みながら笠ケ岳を眺め、いつか三叉蓮華から縦走した時の長く辛かった行程を思
った。笠ケ岳はあまり近すぎて、あまりにもデカくて、うまく収まりきらない。
振返って急いで独標に続く岩峰をスケッチする。前穂にかかっていたガスがこちらの
岩峰にまで延びてきた。ひょとするとにわか雨にでもなりそうだ。早々に片づけて西
穂山荘まで飛ばした。山荘に着いてすぐ生ビールを頼んだ。久々にビールを一気にや
る。えーい尿酸値なんか知らんぞ。うまい!
後藤さんとの約束もあり、あまりゆっくりもしておられず山荘を出る。下りが相変わ
らずきつい。この下りには緩いながらも登りがあって、そこでは恥も外聞もなく後か
らくる若い連中に道を譲った。駅に着いたのは3時10分。臨時のロープウエイが出て、
それで下った。

新穂高ロープウエイ駅で

新穂の駅の階段をくだっていくと、浴衣姿の後藤さんがビデオを構えていた。笠山荘
に5時半に着いた。日焼けした高橋、田中それに金谷のみなさんに会った。6時から宴
会場での大夕食会。やはりみなとやる酒は格段にうまい。料理は豪華、多彩の割には
不思議と葉っぱの天ぷらを除いて、どれ一つとしてうまくなかった、というのが全員
が一致した評であった。

8月9日 ロープウエイ駅15時10分―西穂山荘 16時20分
8月10日 西穂山荘6時10分―(スケッチ1時間)―西穂山頂10時(スケッチ1時間)〜11時発
―(スケッチ1時間)−西穂山荘14時(休憩)−ロープウエイ駅15時10分
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