苦労の果てきてよかったと、心底思う。

−−読売新道〜裏銀座(付タイム記録) 中村

Mon, 30 Aug 1999 13:20:50


山行記録

北アルプス読売新道〜裏銀座
参加:橋元、中村
1999年8月11日〜15日

8月11日(水)夜10時半新宿発
8月12日(木)  扇沢〜平の渡し〜奥黒部ヒュッテ 詳細は善さん記録
夜行バスではほとんど寝られず、そのうえ何やら出発前のビールがきいたらしく少々頭が
痛くて先が思いやられる。
それでもきょうはほとんど平地だしと思ってなめてかかっていたら、すでに平の渡しにつ
くまでに頭痛も加えてばてばて状態になってしまう。
こんなことで、明日11時間も歩けるのだろうかと不安に思うが、きてしまった以上は仕
方がない。考えないことにする。(斉藤方式)
渡船場では水面が下なので、階段にみんな座って待っている。上の小屋から船頭さんが人
数を数えながら降りてきて2回船が出ることになった。ここでも私は頭が痛いのとばてた
のとで、青息吐息。後ろに座っている人たちが一斉に追い抜いていってしまう。
おい、おい、それはないだろ、並んでるだろとおもうが、声に出ない。それでもギリギリ
5人全員1回目に乗れる。
船をおりると長い石段で登山道に出るが、これがまたつらい。いつのまにか、私が先頭に
なっていたらしく、ピッチが早いと後ろの大森さんにいわれるが、こちらは、あえぎあえ
ぎで身に覚えがない。
小屋に宿泊の申し込みの時、行く先を書く欄があって、当初上の廊下隊はテントどまりの
予定だったので、読売新道と記入する。
小屋の主人に様子を尋ねると木の根っこでつくったような路だという。その後、大森さん
達も雨がふってきたので、小屋に泊まることになり、宿泊表は人数を5名に増やしてもら
った。

8月13日(金)
06:00 奥黒部ヒュッテ発
11:55 赤牛岳直下大休止
12:25  ”   発
12:40 赤牛岳頂上
15:00 温泉沢の頭
16:20 水晶岳頂上
17:00 水晶小屋着
朝6時、昨夜の雨もあがっているが、けっしていい天気ではない。斉藤さんに出発前の写
真をとってもらって上の廊下隊より一足先に出発する。
出るとすぐに急登がつづき、そのうち小屋の主人がいったような木の根っこでつくったよ
うなえんえんと続く樹林帯の登りとなる。
目標としては1時間に1本たてようと決めて歩いていたので、赤牛は昼頃かと思いながら
ただひたすらの登りである。
それでも後ろから呼び止められてみたヒカリゴケは、うっそうとした樹林帯の中、しかも
曇天の、そこだけは鮮やかな美しい緑が文字どおり光っているのであった。花はほとんど
終わっていて時折咲きおくれたゴゼンタチバナがちらほら見られるだけの単調な道に、こ
のヒカリゴケの印象は強烈であった。
樹林帯を4時間程歩いてやっと、あれが赤牛かと思うような山が見えてくるが、頂上の前
には幾重にも小さなピークがあるようにも思えるので、あまり期待はしない。しかし、山
肌が赤い山を見てあれが赤牛と確信した時は、これでビバーク無しで、水晶までいけるか
なと少し自信を持つ。頂上直下で大休止、時間もちょうど昼となったので、昼食とする。
途中持病の高山病の頭痛が出る予感がしたので、NHKの番組をフト思い出し、時々深呼吸
しながら歩いてきた。そのせいか、すでに2500はこえていると思うが、徴候がおさま
っている。
30分程休んで、気合いを入れなおして一路水晶をめざす。すこしずつ花も増えてきたの
で、視界はあまりないけれども今までの樹林帯の登りとくらべたら楽しみがある。赤牛頂
上は通り過ぎるのみ。写真隊がいないので、ポーズをとることもなく、まだやっときょう
の行程の半分を過ぎたのみと自分に言い聞かせる。
温泉沢の頭までくるとけっこう険しそうなピークが見えてくるのであれが水晶かとも思う
のだが、時間からしてそんなはずがないとまた自分を叱咤するのだった。水晶頂上直下は
最後のきつい登りである。しかも1時間くらい前から遠くで雷が鳴り続けている。だんだ
んこちらに近付いてくるようでもある。気味が悪い。ゴロゴロした白っぽい岩の急登がい
つまで続くかと思ったとたん、さりげない水晶頂上の標識が目に入る。頂上ではもちろん
何も見えず、ついに大粒の雨も降り出してきた。そそくさと雨具を取り出し、急いで小屋
へと向かう。もちろん人影はない。
小屋までの道はやっと、北アルプスのお花畑の雰囲気になってきて、予想よりも早くぴっ
たり5時に水晶小屋前に到着。きっかり11時間の行程であった。まわりはだれももいな
いのだが、小屋に入ると橋元報告にあるような有り様で、いったいどうなるのかと思うが、
疲れと興奮であまりネガティブな方向に頭が回らなかったのが幸いして怒りモードになら
ない。二人いる若い小屋番のうちヒゲの男が読売新道をきたといったら、五人じゃないの
かと問われる。無線で小屋同士連絡を取り合っているらしい。そこで、奥黒部ヒュッテで
3人追加した時行く先を別に書き加えなかったことに気がついて後の三人は上の廊下にい
ったことを告げる。しかし、ここに五人きていたらどうなっていただろう。土間には我々
の寸前に到着したらしい山慣れしたおじさんがすぐ目の前で裸になって着替えしている有
り様であるし、部屋ではすでに夕食中で、満杯にしかみえない。
しばらく身動きもとれず濡れたまま呆然としていたが、気を取り直して雨具を脱いだり、
ビールを飲んだりしているうちに恩着せがましいカレーライスが出てきてかきこんだ。私
の寝床は一番はじっこで、どうせ寝られないのを覚悟する。我々は、さんざん嫌みをいわ
れたが、夜7時にひとり客がきて、どこに寝たのか、静かにどこかに潜り込んでいた。最
初はじっこに寝ようとしたらしいが、私がすでにドアにぴったりの状態だったので、少し
中に入ったらしい。すくなくとも出だしで抜いた二人の単独行者のうちのひとりではなか
ったようだ。

8月14日(土)
05:45 水晶小屋発
06:20 東沢出合
07:35 真砂岳分岐
08:40 野口五郎小屋着 停滞
昨夜来の騒ぎで不機嫌そうなOJと、とっとと水晶小屋を後にする。最悪の山小屋体験であ
った。ほとんど寝られなかったものの、歩き出すと体調はそんなに悪くない。頭も痛くな
い。これは画期的である。思いのほか歩がすすんで、7時半過ぎに真砂岳分岐にきてしま
った。
ここで、天気も悪いし、気分もスッキリしないので、OJはくだってしまおうかと悩むが、
明日の天気の回復をわずかな望みに野口五郎の小屋を取りあえず目指すことにする。8時
40分に小屋について泊まり客第1号となる。
ここは人の対応も、環境も水晶小屋とはまるで違う。こんなに早くついてどうやって過ご
そうかと思ったが、濡れたものを乾かしたり、ビールを飲んだり、つまみを食べたり、昼
寝をしたりしているうちにあっという間に夕御飯の時間となった。肉じゃがやてんぷらの
ついた豪華な夕飯で、日本酒を飲んだりしたので、周りの人々に取り残され、従業員は2
度目の膳の支度にかかるのだが、片づけながらも「どうぞごゆっくり」と、こちらに気を
使わせない。下界でもこのような接客態度は稀である。
8時過ぎに就寝となるが、外の雨脚は日中にもまして、激しくなっている。上の廊下隊は
どうしているかと案じながら床についた。
夜中12時頃トイレに起きると依然として激しい雨音がしていたが、2時半頃には止んで
いるようだった。

8月15日(日)
05:40 野口五郎小屋発
07:15 三ツ石岳
07:55 烏帽子小屋着
08:15  ”   発
09:00 三角点
10:55 登山口
11:35 高瀬ダム着 〜 タクシー
12:05 大町市民温泉着
15:28 スーパーあずさ10号にて帰京
朝五時の朝食。きょうは小屋の人や同室の人たちと挨拶をかわして小屋を後にする。天気
は少し持ち直しているようで、昨日の決断が大正解だったことになり、二人とも上機嫌で
ある。今までは歩いてきた稜線が全く見えなかったが、小屋を出ると読売新道から続く水
晶、赤牛、その後ろに薬師とみえている。それにしても読売新道は長い。エーっ、あんな
長いところを歩いてきたんだ。と、感激していると、単独行の女性が読売新道登ったんで
すか?私は下ったことがあるけどそれでも嫌になった。と、話し掛けてくる。
読売新道を登ったというと一応みんな一目置いてくれる。なんだか得意げになる。
後ろを振り向くと槍の穂先きも見え、その手前大天井あたりだろうか、豪快に滝雲が流れ
落ちるいかにも北アルプスという風景が展開している。しかし、天候は明らかに悪化する
だろうとしか思えない。
きょうは先が見えるので、いかにも北アルプスの稜線漫歩という感じになり、きてよかっ
たと、心底思う。なだらかな下りでルンルン気分で歩けるのである。しかも去年蓮華で見
たコマクサの群落よりも遥かに多くの群落があり、去年よりも時期が早いので、少し遅い
けれどもまだ花をつけているのがたくさんある。
もっと歩いていたかったのにという気分の中、2時間程で烏帽子小屋についてしまった。
少しの休憩の後、いよいよブナ立の下りにかかる。去年の蓮華の大下りで膝をいためてし
まったので、このくだりはとても不安だった。
しかも4時間と覚悟していた。しかし、最初の1時間の三角点に45分でついてしまい、
道も思った程急ではない。膝の痛みも筋肉痛もなく調子がよい。と、思っていたら、足を
滑らせてもののみごとに転んでしまった。幸い転び方がよかったので、ダメージはなかっ
たけれど、うしろから、好事魔多しというから調子のよい時は油断しないようにといさめ
られる。
この道は歩きやすいけれど階段状のところに丸や、L字型の鉄の棒を埋め込んであってし
かもむき出しになっているので、下る身にはここで転んで顔でもぶつけたらどうなること
かと恐怖を感じさせる。登っている時はおそらく感じないだろうが、下りには恐い。てっ
ぺんを赤く塗って注意を促しているが、とっさの時はどうしようもない。
結局三時間かからずに登山口まで降りてきて、後は高瀬川の白い河原を歩き、吊り橋を渡
り、トンネルを抜けてダムに到着。下界は雨だった。
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