ドジな単独行 大洞川支流の栂ノ沢

鈴木善三     '89/10/14〜15


メンバー  鈴木

 今回の予定は、大洞川支流の栂ノ沢を遡って荒沢谷を下るつもりで入った。ところが、荒沢谷出合迄の林道が崩壊による道路工事のため通行できなかった。それではと、急遽滝川の槙ノ沢に入ろうと思い、天狗岩隧道の手前まで行き、車を止める。家を5時に出てきたけれど、大宮で交通事故による渋滞に会ったり、荒沢出合方向まで行ってきたりで、秩父湖のトンネルの所で10時になっていた。
 先月金山沢に入り曲沢を下ったので、隧道手前の下降点もしっかり確認しておいたつもりであった。遡行を始めたのは10時半を過ぎていたと思われる。実は持ってきた時計が秒針しか動いていないのだ。去年冨山さん、田中さん、亀村さんと来たとき、尾根迄追い上げられた所、テントを張った所などを思い出しながら歩く。最初のヘツリの所などは、去年どのようにして通過したのだろうと思うほど苦労させられた。
 曲沢を過ぎて金山沢の出合の所はライトグリーンに染まりすばらしい眺めだ。此処から槙ノ沢出合手前迄の処は、案内書などには何も触れていないけれど、この沢のハイライトだと思う。案内では、水晶沢、古礼沢など上流部が強調されている。自分は古礼沢にしか入っていないけれど、この沢は槙ノ沢出合迄で85%、水晶谷出合迄で96%、これで終わりだ。明るいゴルジュで大きな岩が重なり合い、右に左に、あるいは水の中を行くのは沢登りの醍醐味である。
何処の沢にも引けを取らないすばらしい処だと思う。
 とはいえ冨山さんはあまり気に入らなかったようではあった。遠いけども何度来ても楽しめる沢そのものだ。槙ノ沢出合について、さて考えた。地図も遡行図も予定が変わってしまったので、1枚も持っていない。槙ノ沢を遡行してまた同じ所をもどるのもシャクだし、稜線に出て尾根を車のところまで戻るのも地図がないので不安だ。釣り橋小屋跡まで行って今日中に家に帰ることにする。
 しばらくすると釣り橋小屋跡に着いた。4人のパーティが居て焚火をしていた。時間を聞くと3時10分とのこと、火にあたらせてもらい、持ってきた缶ビールを飲む。家に帰るのだし1本は進呈する。枝豆を御馳走になり、運動靴に履き替えて、明るいうちに下れるだろうと言って釣り橋小屋跡を出る。
 稜線まで一気に登っていてよく踏まれている道を今度は下る。しばらく進むと細い沢筋に出た。此処で事件が起こった。突然道がなくなっているのだ。間違ったと思った。すぐ稜線の見覚えのあるところまで引き返す。ところが山のきれいな一本道で間違えるようなところは何処にもない。また来てしまった。今度は、流れの先に道があるわけだと、捜し回った。上は稜線近くまで見たけれど何処にも登山道らしきものは見当たらない。水も流れているしツェルトを張ろうかと思ったが、釣り橋小屋跡まで戻り、明日もう1度捜してわからなかった
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場合は、沢を下ることにする。
 苦労して戻る途中暗くなってしまう。ズッコケながらも釣り橋小屋跡まで戻る。彼らに時間を聞くと6時10分だとのこと、3時間もはいずりまわっていたことになる。さてツェルトを張り、コンロに火を点けようとすると、ライターもマッチも入っていない。わからなくなったところでツェルトを張っていたら夕飯も食べられないところだった。彼らに火を借りて夕飯は出来たが、ビールはなしウイスキーは持ってこなかった。寂しい、酒がこんなに恋しい山の夜ははじめてだ。ふて腐れて寝てしまった。夜中に2、3度目が覚めた。その度に何処で、何故だと思った。
 朝起きたらずいぶん明るい。しかし時間はわからない。彼らのテントはひっそりとしている。彼らを起こして火を借りるわけにもいかない。支度をして歩きだす。今日は、下から1歩1歩確認しながら進む。しかし、
何処にも間違いそうな所はない。
 また昨日の所の近くまで来てしまった。あと20mくらいだ。そこに直径70〜80p程の倒木がある。昨日は、これをまたいで通った。僕はいつも足の短いことを話しの種にされている。無理をしてまたいだのが間違いのもとであった。今日もむろんまたいだ。これで、そのあとちょっと下をみると、あれ!2〜3m下に降りてみると、倒木をくぐった所からきれいな一本道が続いているのだ。馬鹿にしている。昨日あれほど苦労したのに。それにしてもドジな話だ。
 帰り道で茸狩りの夫婦らしい人とあったが、思わずこのことを話してしまった。相手は笑っていた。天狗岩隧道の所の下降点は、今まで全部間違っていた。彼らが教えてくれた。今度はしっかりと確認して、車に乗る。秩父湖のトンネルを出ると9時の時報であった。
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