中央沿線の山/高畑山・倉岳山・高柄山 

−−低山を侮るかなかれ 斎藤 修

Tue, 15 Feb 2000


 インフルエンザで苦しめられ,体調を崩していた。どうやら回復してきたので,
歩いてみようと頑張ってみる。行き先は,陣馬・道志山塊の高畑山(秀麗富士12景)
に決めていた。しかし,1山で終えるのにはもったいない。縦走路は長野原までつ
ながっている。体力のことは考えず,コースだけは決められていた。

    調整池から倉岳山
 我が家を始発で出るといろいろな電車に接続がよい。荷造りに手間取って出が遅
れ,寸でのところで乗り遅れてします。10分後は2番電車が来るが,これがすべて
に乗り継ぎが悪いことを何度か経験している。悔やんでもしょうがないので,新宿
まで出る。中央快速20分の待ち合わせ,待つよりは京王線で登った方が良い(早さ
が変わらないのにJRの半額350円で高尾まで出られるのも魅力である)。

 運良く高尾で,八王子7:48発の甲府行きに無事接続できた。これは,新宿発7:05
発の快速でも同様である。この電車はすべての駅でバス等の連絡も良いのでよく利
用しているもの。どうにか帳尻は合いつつある。連休の最終日ということもあって
結構混んでいる。相変わらず高齢者が多い。

 8:01無事に高尾を出発できた。途中特急の待ち合わせなどもあるが,8:35鳥沢駅
に着くことができた。以前の古い感じのする駅舎が安心できる。駅前では,扇山の
麓まで運ぼうとする客待ちのタクシーが数台止まっている。今後のためにタクシー
の保有状況を確認してから出発する。

 早朝のせいかまだ町は静かである。駅前に簡単な登山コースの案内があるので確
認できる。このあたりは桂川(山梨では桂川,相模湖から下流は「相模川」という)
が,蛇行していて,複雑な地形をしている。私が目指す「高畑山」はまずこの川を
超えなければならない。梁川方面へ国道を数分戻り踏切を渡り,しばらくは集落の
中を指導標に導かれながら川沿いに進む。やや戻り返すように下ると,立派な橋が
架かっているので渡る。橋から河床までかなりの距離があり,見応えがある。

 このあたりで,先行する男性1名と女性2名の2グループをぬくようになる。橋
のたもとには住宅地図のような案内板まであり親切である。民家がなくなり始める
と,車止めがついた林道の登りになる。この道はすぐ上の調整池まで続いている。
調整池と言ってもなかなかの自然美あふれるもの,水面には氷も張っており,前方
に倉岳山も確認できる。

 次第にゴツゴツとした岩が混じる道になる。途中「峠の自然道」という標識があ
るが意味は不明。沢沿いにしばらくは道が付いている。このあたりには上部になに
もないので水をくむことが出来る。すぐ上に堰堤があり,そこから次第に沢から離
れていくので,気をつけたい。植林帯と自然林のなかを交互に歩くような不思議な
道が付けられている。安定した道が終わる頃,石仏と呼ばれる分岐点に着く。確か
に由来のありそうな石仏が鎮座している。倉岳山を目指すのであれば直進し,穴路
峠を目指せばよいが,高畑山へは左折する。 踏み跡がしっかりしている,登山道
が等高線をゆっくりとまたぐように蛇行しながら付けられている。急登はないが,
かなり歩行距離はうんでいるようである。枯れ枝越しに扇山の大きな姿が,確認で
きる。やはりこのあたりは落葉した時期の山行が適しているようだ。足元の枯葉が
サクサクと音を出し,一人歩きの寂しさを消してくれている。高畑山に行くまで2
峰ほどのピークがあるが,西面を巻くように道が付けられている。したがってこの
間は北西側の展望は得られる。

 もうすぐピークかと思うとまた登りがある。このような繰り返しをしているうち
に,トラバースするような道になる。穏やかな道が付けられているが,前方に20名
弱の集団。しばらく追走するが,道をあけてくれたので,先に出してもらう。また
して老年隊。若者はどこへ行ってしまったのだ。植林帯をしばらくあるかされた後,
直角に曲がるように標識が付けられている。

 葉がいっぱい茂った檜の植林帯を歩かされる。日差しはあるのに暗く非常に鬱陶
しい。加えて急登の道が付けられている。落ち葉のないので,慎重に踏み跡を確認
しながら歩く。遙か彼方には光が射しているので,多少登りに飽き始めた体には辛
いものがある。稜線につけば,枯れ枝の稜線道になる。倉岳山も枝だ越しに見られ,
登ったのだという実感を味合わせてくれる。稜線を下るような踏み跡もあるが,枝
で止められているので特に下山の際には気をつけたい。

 稜線はまだかなり先まで続いているようである。岩混じりの急な登りになるが,
陽もあたり気持ちの良い登りではある。前方にあるピークは,前方でもうひとガン
バリしないと行けないようである。植林が山頂近くまできている「高畑山(楢山)
982M」には1時間30分程度で付けたわけだから,かなりハイペースである。その甲
斐あってどうにか富士山の姿を拝むことが出来た。気温が上がり薄雲が出始めてい
たので,不安であったが,秀麗富士の姿を確認することが出来た。丁度秋山の集落
越しに,石割山・御正体山がすそ野のを隠すようになっており,なかなか趣がある。

    高畠山より見る秀麗富士12景の一つ
 山頂は,平坦で広くなっており,富士を見ながらの休憩には,もってこいなとこ
ろである。先についた単独行3名がそれぞれの休憩をのんびり取っていた。秋山側
はかなり切り立っているようで,下方を見ると山肌が確認できない。そのせいで,
富士山の姿も見ることが出来るらしい。真下にゴルフ場がある以外邪魔なものはな
い。西に道も付いているが標識はない。しばらく山頂の眺めを堪能しながら,地図
で先の予定を確認する。

 最初で時間を稼いだので,上野原まで縦走を敢行する決意を胸に先を急ぐ。穴路
峠までは結構な下りである。200Mほどは下降している。途中天神山879Mがあったよ
うだが,明確に確認できなかった。峠は南北に明瞭な道が付いており,鳥沢と秋山
を結ぶ重要な道であったことが伺われる。峠付近で3名程のグループと会ったが,
高畑山方面へ登っていった。
続いて男性2名が登ってくるが軽装で不思議な二人連れである。

 ここからは,倉岳山への登りがはじまる。標高差500M弱なので,結構ある。最初
は傾斜も緩く息も上がらないが,次第に急になり,岩場状になる。やや三点確保も
必要な傾斜,疲れ始めた足腰には堪える。緩斜面に急斜面が交互に繰り返され,最
後の植林帯づたいの斜面を登れば,山頂。と思うとまだ左に進路がある。どうもこ
のあたりの山は,一度で山頂に立たせてくれないらしい。またこの分岐には,地図
には記載されていない鳥沢へ向かうルートが付いている(エスケープルートと記載
された小さな案内があるので,初心者はやめておいたほうが良さそうである)。

 なだらかな稜線を数分歩くと,特に展望のない広場に「山梨百名山」の標識が目
立つ山頂に達する。北側は植林のため,そのほかは自然林のため明快な展望は期待
できない。やや東方がこれから行くであろう「矢平山」「高柄山」が確認できる範
囲で,開けている。地形からして気を抜かぬようここまで我慢していたビールで,
恒例の山頂の儀を遂行する。やはり美味しい。汗も十分かいているので,格別であ
る。先ほどまで見えていた富士山も完全に雲に覆われている。昼食には多少早いの
で,体を休めることに専念する。途中で元気が良さそうな青年をぬいているので,
多少満足感も感じている。峠でお会いした男性2人は,到着するやシートを広げ上
半身裸になり,着替え始める。その後はコンロなども出し休憩しているが,何で一
式着替えるのだろうと変な疑問を感じる。

 15分程度の休憩で先を急ぐことにする。ここまで,コースタイムの半分程度のス
ピードを維持している。病み上がりとしては多少オーバーペース。とにかく上野原
までは意地でも頑張ろうと体に鞭を打つ。ここからのコースタイムはやや甘そう。
また短縮すべくひとガンバリする。意外と高度を落とす下りに困惑(下ったら登らな
ければならない)しながら峠を目指す。とにかくこのルート小ピークの繰り返しなの
で,多くの峠と遭遇することが出来る。出だしの標識の所以も解るような気がする。

 鞍部の立野峠は特に特徴のある雰囲気はない。梁川方面だけでなく秋山方面の踏
み跡もしっかり付いている。読図上はあまり高低差の無い地形をしているので,ス
ピードを出すことが出来る。小ピークの連続する稜線を歩く。意外とやせている尾
根道もあり,視界がない分楽しませてくれる。最初のピーク細野山は標識もなく確
認できぬまま進む。その後何度か上り下りしている間に,先ほどの青年(倉岳山で
抜かれてしまっていた)をとらえる。青年から「早いですね」などと言われ,再び
気をよくして先を急ぐ。

 トヤ(鳥屋)山は小さな標識があるので確認できるが特に特徴のあるものではない。
しばらくガンバリ急な登りで汗を出せば,樹林の間のブナの木に「舟山」の木札(
標識と言うにお粗末)。丁度きりがよいので休憩していると,青年に再び抜かれる。
これ以後青年をぬくことはなかった。すぐ下に「寺下峠」がある。十字路になっい
るが,やはり峠らしくは無い。峠から3つ目の目指すピーク「矢平山」への登りが
はじまる。舟山から1時間とコースタイム合ったが,30分強で着いてしまう。おか
げで「丸ツツク山」は気がつかず通り越してしまっている。時間的はここで昼食と
したいが,どうもきりが悪い。めどが付く「高柄山」まで,我慢することにする。
細いブナの木に誰が書いたか,幹に「矢平山」と刻まれている。痛々しい気持ちを
感じずにはえられない。

 高柄山までは1時間強。山頂での2度の乾杯と昼食を楽しみに,体に鞭を打つ。
実はこのあたりからだいぶ疲労感が出始めている。病み上がりの運動不足が影響し
ている。旧大地峠まではすぐに着くことができた。あまり歩く人もいないのだろう
か,ツツジの枝だが登山道まで出でいるところが多い。そういえば,ガイドにも夏
期は藪が深いと記載されているものがあった。「甚之函山」という興味あるピーク
があるが,省略し先を急ぐ。新大地峠までは,右下方に工事中の林道を見ることが
出来る。何のために作っているのであろうか,山容を変えるほどの立派な工事であ
る。

    高柄山
 斜面に標識がある変な峠が「新大地峠」となっている。ここから四方津方面にも
降りられるが気合いを入れ,邪念を捨てる。山頂に分岐になっている小ピークまで
にまた登る。だんだん嫌気が差し始めている。そのせいか,コースタイムも短縮で
きない。「高柄山」までは5つほどの小ピークを超えたような気がする。とにかく
何度最後と思わせてくれたものか,苦労させてくれる。千足峠は確認できぬまま,
もうだまされまいと思いながらピークを目指せば,最後の目的のピーク「高柄山」
たどり着く。時はすでに14時過ぎだいぶかかってしまった。

    高柄山山頂
 山頂の記録撮影もせぬまま,座る場所を探しザックからビールを出す。やややけ
くそ気味に,喉に流す。やや落ち着き山頂を確認すると,「山梨百名山」の標識が
山頂の端に立っている。小さな社もある。展望は,上野原方面(陣馬・生藤山)が確
認できる。回り込めば,道志・丹沢北部も見られが,雲が出始め確認できない。寒
さと戦いながらビール(途中でなぜ飲むのだろうと反省しつつ)を飲み,揚げ玉入り
きしめんを作り腹に詰め込む。おかげでなにか落ちついきた。後はのんびり降りれ
ばよいだけである(地図上はそうなっている)。

 しばらくは順調な下りが続く。あっても大した登りはない。あっという間に「新
矢の根峠」につき,休憩舎を確認できた。しかし,ここからゴルフ場の造成のため
変更されたのであろうか,とんでもない道となる。沢沿いに降ろされたと思えば,
また登り・山を巻く。どう見ても不自然なルートが続く。途中不明瞭なところがあ
るだけでなく,四方津方面へ行く沢沿いのルート(初心者進入不可の小さな標識あ
り)まである。当然不明快な道には入らない。しかし,次に待つ試練は標高差200M
程度ありそうな登り,後戻りもできないので進む。こうなると惰性。ピークまで行
くかと思うとすかされる。加えて追い打ちがかかる。ゴルフ場から始まる沢沿いの
道につながるものと思うと,等高線を無意味にアップダウンするトラバース状の道
がつながる。これには腹が立った。

 とにかくこの程度にいらだつのは,自分の不養生と戒め最後の力を生み出す。ど
うにか林道に出ることが出来た。16時を間をすぎている。後は林道を下れば,上野
原に行けるだろうと思うと,林道が登っている。今度ばかりは,逆らうことにする。
よく見ると沢沿いに踏み跡がある。最後のルートファインディングとしての選択を
する。集落にたどり着く。記載のルートではないことは解っているが,目途をつけ
られただけでよい。前方に見える駅舎に向かうのみである。

 上野原到着16:20でやっと集結となる。多くの教訓を得た山行の様な気がする。
自分にも充分な戒めとなった。たまにはこのような山歩きがあっても良いような気
がする。とにかく,目標の4山(高畑山・倉岳山・矢平山・高柄山)・7峠を完走出
来たわけである。心配された,足腰も翌日たいして堪えていない事だけが,唯一の
救いである。
 侮るなかれ,低山歩き。若者は山から消えたのか・・・・。

平成12年2月13日(日) 単独行:齋藤修

 新宿7:05−(京王線・急行)−7:55高尾8:01−(JR中央線)−8:38鳥沢8:45−9:30石
仏−10:10高畑山10:20−穴路峠−11:10倉岳山11:25−立野峠−細野山−鳥屋山−
12:20舟山12:30−寺下峠−丸ツツク山−13:00矢平山13:10−旧大地峠−大地峠−千足
峠−14:10高柄山14:30−新矢ノ根峠15:05−民家集落16:00−16:20上野原16:37−高尾
−新宿

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