裏妙義山詳報

--紅葉の静寂な山(丁須岩・烏帽子岩)・齋藤 修

1998年11月1日


紅葉の静寂な山 裏妙義山 丁須岩・烏帽子岩

 初冬の一日,日曜日だけが空いた3名の東葛支部が,何の前触れもなく「裏妙義」を
決行した。事のおこりは,1週間前赤岩尾根を歩いているとき妙義山に行ったことが
ないので行って見たいと申し出たところ,裏妙義ならばつきあうという大森さんの言
葉にある。この週末は,長老たちがいろいろな資格で「毛無(ケナシ)山」にふさわしい
メンバーを選び1泊2日で,出かけている。当然,随行すべきであるが土曜日に用事
が入っていた。メールで前日打ち合わせ,急遽実行となったわけである。

 裏妙義には,横川からはいるルートと国民宿舎裏妙義がある妙義湖側から入る方法
がある。今回は,車での日帰りという事もあり,後者を選択した。上信越自動車道を
渋滞もなく「松井田妙義」まで一気に進み,国民宿舎を目指す。18号の道路を長野側に
入ると,以前高速道路ができるまでお世話になった風景を2KM程走り込む。「国民宿
舎裏妙義」の看板を頼りに左折する。川を渡り,しばらく寂しい道を登る。ハイカー
用と思われる道標を頼りに,妙義湖を通過すると,鈴木さんが以前この駐車場でテン
トを張ったと言い出す。見てみると,舗装道路に町営の休憩所が湖畔に立つ人工的な
雰囲気。何で山屋がこんなところで一夜を空かすのかという疑問が投げかけられる
が,返答がない。

 しばらく行くと,行き先がゲートによって通行止めになっている。その横の橋を渡
ると国民宿舎裏妙義がある。駐車場をどうしようかと躊躇していると,国民宿舎から
支配人らしい方が出てきて我々の行動を凝視している。大森さんは何の躊躇もなく,
舗装してある駐車スペースを確保する。身支度を整え,出発しようとするが鈴木さん
が先程の男性に捕まっている。そのまま宿舎に向かったので,駐車料金を徴収された
のだろうと推測する。我々も準備を完了すると,鈴木さんも戻ってくる。詳細を聞く
と「担当者に駐車する旨を伝えるだけで良かった」という。なんと寛大なご配慮。入り
口に『無断駐車お断り』の非常に目立つ標識があったのは,そういう手続きを踏めと
言うことだったのた。都会では理解しがたい約束事である。ついでに私はトイレを借
用し,宿舎内を見学してきたのだか,外観・デザインは古いが内部はリニューアルさ
れてあり,非常にきれい。これで6,800円という宿泊料なのだから頭が下がる(ちょっ
と配慮してもらうとすぐ評価が上がる)。

 宿舎の左から登山道が始まっているというので,裏手にまわる。都心部では追放さ
れた巨大な消却炉の横をくだり,登山道に合流する。小箱に登山届けの用紙と提出箱
が用意されている。ここからがいよいよ「裏妙義」への歩行が始まる。再び鈴木さん
が,この道を下りたことがあると言う。前回のことのようであるが,節々が記憶が定
かでなく判定しがたい。ガイドブックによると,沢を渡り「じめじめとした歩きづら
い道を登る(ガイドブックの表記なのだからもっと登山者の意欲をわかせる表現がな
いものかと変な不満を持つ)」とある。確かに快適ではないが,明瞭な踏み跡がついて
いる。とにかくこのルート国民宿舎に導かれるコースには必用に,表示がつけられて
いる。ここ辺まではまず一般道と解釈しても良い。

 道は植林帯から沢沿いの道に移り,様相が変わってくる。ペンキ・標識で導かれて
いくが,大きな岩を越えたり,鎖場が出没するなど変化に富むようになる。途中何度
かルート判断が必要なところがあるが,意外と十分な標識がつけられているので,安
心である。巨石を鎖に頼って登ると広い場所があり,40分程度歩いていることと,紅
葉の美しいシャッターチャンスがありそうなので,休憩となる。先客も同様な気持ち
で3名(やはり中年)がくつろいでいる。先ほど駐車場で,高校生と思われる男女のグ
ループが出発の準備をしていた。元気な声が聞こえてきたので,追いついてきたに違
いない。これに抜かれては,静寂な山もふつうの山になってしまいそうなので,先を
急ぐことにする。

 ここからは,自然林の中を沢沿いに進む。所々沢の中の登りになるが,しっかりと
した踏み跡がついている。次第に常緑樹の中に紅葉する木々が増えるが,色づきが悪
い。特に本来見事に赤く色を染めるはずの「カエデ」が緑のままで茂っている。やはり
異常気象が影響を与えているのであろう。

 ルートを右寄りに移し,支流(枯れ沢)沿いに沢どうしに登り始めると,急勾配のせ
いもあり,一気に高度を稼ぐことができる。沢づたいに穴吹尾根が見事に色づいてい
る姿が,確認できる。8割り程度登り詰めたところで「丁」の形をした岩が見え隠れし
始める。たぶんあれが丁須岩なのだろうと鈴木さんに確認すると,そうだの返事。目
標が確認できると後は登るのみ(しかし最近の鈴木さんも何か記憶が不安定なところ
が多い。このルートも以前梓で丁須岩から降りているというのであるが,全く覚えて
おらず,その替わり国民宿舎から横川までタクシーで車を取りに行ったことやテント
を張った駐車場の位置は明瞭に覚えている。まあ梓ハイマーのせいであろうと聞き流
す)。

 最後のほうになると,沢通しの道のためやはり勾配が一層急になる。沢を忠実に詰
め,足場を確認しながら慎重な登りになる。最後のルンゼにつけられたやや長い鎖場
を過ぎると,鞍部に出ることができた。右から横川からくる道がつけられているが,
我々は左に丁須岩を目指す。ところがすぐに下降,だいぶトラバースした後で岩稜を
巻くように,道がつけられている。前方をみると垂直の岩場に鎖にしがみつき,声
(黄色ではなくやや濁った色−山はどこでも中年)を上げている先行者がいる。なかな
か最後まで遊ばせてくれる。こうなるとまた悪い癖,私は鎖を無視して直登してしま
う。大森さんを抜き前より行動を確認してるとなかなかの鎖場,まして紅葉も見頃で
ある。鎖場で鈴木さんを止め,大森さんはカメラの準備及びアングルを要求しながら
の撮影となる。少し登り詰めると意外に小さな丁須岩が現れ,最後の岩稜登りで終了
となる。 

 丁須岩は思いの外小さく5Mほどの規模である。根本まで鎖で行くことができる。
丁須岩にも鎖が垂れ下がり登れるようになっているが,垂直で多少かぶっておりその
上手を離せば,数メートル落ちていく状態。とても普通の神経では登る気になれな
い。下から見上げるおばさんが,「誰か登って...」などとカメラを構える。誰かと
いっても我々しか丁須岩の元にはいないのだから我々に登れといっているに違いな
い。飛んでもない要望である。さすがの鈴木さんも勇気がなく近づかない。

 やや出たところに,テラス状のところがあり,陣取る。地図を取り出し,近辺の山
を確認する。浅間隠山と鼻曲山が識別できないが,後はだいたい確認できた。天候も
回復し,360度の展望が得られている。遠方はガスがかかっているが十分な展望であ
る。特に,近くに見える表妙義の山並みは,岩と紅葉・常緑樹のコンストラストが美
しい。これから向かう方向に「大きな風穴」を持つ風穴尾根も堂々とした姿を呈してい
る。

 高校生が合流し,テラスもやや手狭になってきたので縦走路にもどる。ここから
は,岩稜歩きと尾根・岩稜のトラバースが楽しめる。しばらくは,やせた岩稜を歩
く。やせ尾根状になり下降すると,「登って良いですか」という男性の声。結構気合い
が入っている。ルンゼを見下げると,長い鎖がつけられている。これが,このコース
最大の難所といわれるルンゼだと確認し,男性の登りきるのを落石に注意し待つ。
じっとしてると非常に大きな声で苦戦している声が,実況放送ごとく聞こえてくる。
声質も何種類にも聞こえ,数名のパーティーだったのだと思い,時間がかかるものと
あきらめる。しかし,出てきたのは汗びっしょりの中年男性一人。ましていまはやり
の高価な真新しい「クライミンググローブ」までつけている。その後は来ない,どうや
らおひとりで演じていたようだ。熊のような容貌で,ルンゼで演技していた姿は壮絶
だっに違いない。だが,きちんと心の準備してきたのであろう装備はきちんとしてい
た。

 おそるおそるルンゼに進み降りる。足場はしっかりしているものの,ほぼ垂直な20
Mあまりの岩場である。以前は見栄を張りホールド・スタンスでこなしたものだが,
鎖を最近は躊躇なく掴んで降りている。家族を思いやる気持ちだろうか自分の鍛錬の
なさであろうか,とにかく安易な方法を選択している。我々3名では,数分の仕事に
すぎなかった。このルートは,登る方がやはりつらいだろうと思われる。初心者及び
山登りになれていない方にはお勧めできない部分である。

 この後は,やせてはいるがしっかりとした踏み跡の稜線路を,時折眺められる眺望
を楽しみに距離をかせぐ。紅葉は,ツツジがしっかりと色づいているが,カエデや黄
色系の葉が美しくなく残念である。快適に進むと「赤岩」の標識がある下降点につく。
赤岩はこのルートではもっとも大きな岩峰だろうと思われる。この先に「西大星」とい
うピークがあり,以前は歩かれていたようだが,現在は踏み跡すらなく廃道となって
いるらしい。10Mほどの一枚岩を滑り落ちると,樹林のなかを左に丁須岩がある岩稜
を見ながら歩けるようになる。少し回り込むと,赤岩の崩れ欠けた岩がむき出しに
なっているトラバースの出発点に出る。今にも巨岩が崩れてもおかしくないような,
垂直岩に鎖と足板(最初の2枚は鋼鉄製の建築現場で使われるよなものが準備されて
いるものの,そのほかは朽ちているか簡単な丸太でできたもので,下部は切りおりて
いる−予算が付いたらその先もつけるという雰囲気)が設置されている。恐怖感を押
し殺し,50Mほどの大きなトラバースを完了する。

 このアルバイトで,赤岩を廻り終えられる。道は烏帽子方面に明瞭に付けられてい
るが,赤岩方面を見送るとルンゼにかすかな踏み跡が発見できる。鈴木さんは稜線へ
の廃道だというが,確認はしていない。これよりわりに快適な道となり,丁須岩方面
が一層ながめられるようになる。先ほどまで,確認できなかった「丁」の岩も姿を現し
始めた。昼食時間間近なので,三方境方面から来ていると思われる数パーティーが良
い場所を物色し休憩していた。我々も昼食としたいが,烏帽子は越えようということ
になり,もう一がんばりとなった。

 赤岩から烏帽子まではさほど距離はないように思われるが,地形上発生する凹凸を
克服する必要がある。また,岩稜を巻くトラバース道が数カ所あり,場合によっては
整備されていないところもあり,気が抜けない。烏帽子岩は,丁須岩から見ていると
一目で「烏帽子」と認定できるほど明瞭な形をしていたが,どうやら相似峰らしい。最
初の岩稜の間をすり抜け,碓氷峠側をトラバースするといよいよ烏帽子岩である。こ
こでも鈴木さんは,直登ルートがあるという(私は迷い道と思うが口を閉ざす)。前回
最大のピークを逃した大森さんに敬意を表し,直登するよう促すが,その気はなさそ
うである。

 しょうがなく全員トラバース道を進む。ところが一枚岩の大岩壁が真っ平ら,鎖が
着いているのでザイルは必要ないが,フリクションを最大限に求められる。ここを過
ぎるとさほど困難な道はない。気楽に歩けるようになると,昼食の宴の場所が気にな
り出す。しかし,3人がゆったりできるスペースと展望の良い場所は意外に無い。こ
うなるとリーダー判断,風穴尾根の頭を少しおりたところで適地を見つけ昼食とな
る。

 今回は,共同装備でビール類の要請がない。おそるおそる冷えたビールを差し出し
てみるが,拒む様子はない。やはり,昼の宴が始まった。私が自宅の冷蔵庫からチョ
ロマカシテきた「愛妻の鳥の唐揚げ」も評判はよい。大森・鈴木さんが食べても異常が
ない(最近毎週のように週末いない私に悪意を抱き予定してあったものではないかと
多少心配していた−最近の毒物事件はいらぬ心配までいただかせてくれる)ようなの
で私も安心して食べる。日頃蓄えてあった「総菜シリーズ」の缶詰もなかなか好評のよ
うであった(他に比較できる食材が無かったせいかもしれない)。この手配のおかげ
で,大森氏所有の「携帯クーラーバック」が我が家の保有になる(今後これに入れてこ
いという事なのかもしれないが?所有権の委譲が成立する)。ビール大3本・ワイン
少々をたしなめた後,下山する。

 ここからは,本当に歩きやすい道となる。ガイドブックによっては,一般道の表記
になっているのも頷ける。ところが私はこの下りで,足をひねってしまう。ゴリゴリ
という感触が足首に走る。やってしまったのは仕方がないので,仲間に悟られないよ
うにそのまま歩く(下山し見るとはれており,自宅に帰ると階段の昇降が難しい程度
の被害)。程なく三方境につく。十字路になっているのにどうして三方なのか理解し
かねるが,車が待つ国民宿舎方面へ降りる。登りのような岩が出現するものかと心配
していたが,植林帯を等高線づたいに少しづつ高度を下げる単調な登山道が待ってい
てくれた。途中見覚えのある先ほど抜かれたパーティーが沢沿いで,停滞している。
しっかりとした踏み跡なので我々も沢通しへ向かうが,なにやら雰囲気が変。「これ
ルートで良いですよね」の質問。それは酔っぱらいすぐに,「そうです」の軽率かつ
堂々たる返答。しかし行けそうもない。よく見ると上部に標識がある。そこはそこ,
「こちらの方が良いようですよ」と軽くいなし戻る。

 等高線に沿ったような登山道が続く。植林帯に忠実に平坦につけられている。緩や
かな下りの連続である。時折,登るので本当に降りているものかと疑問すら感じなが
ら降りる。だいぶ降り,沢に近くなり対岸がみられるところに,沢に降りるものと林
道沿いの道の分岐がある。特に標識もないので,セオリー通り山道を行く。しばらく
単調な道を行くと,今朝きた道と合流してしまった。案内などで紹介している道は,
最後林道を歩くことになっているので,たぶん先ほどの分岐を右に行き沢を越えるの
であろう。なにわともわれ,無事「裏妙義」も終了した。大切に残しておいたビール一
缶をわけ乾杯。天候にも恵まれ,変化に富んだルートは,5時間の旅とはいえ十分楽
しませてもらった。 

参加者 リーダー:大森武志        
                鈴木善三,齋藤修

平成10年11月1日(日)
我孫子5:00−幸手5:50−熊谷−本庄児玉−(信越道)−松井田妙義−8:10国民宿舎「裏
妙義」8:30−木戸9:12−10:00丁須岩10:20−赤岩−烏帽子岩−11:50風穴尾根の頭
12:45−三方境−14:08国民宿舎「裏妙義」14:25−松井田妙義−(信越道)−本庄児玉
15:45−幸手15:15 

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