北横岳行 ―― 大雪の北八ツ 高橋尚介

1998年1月17日-18日


前日までの大雪のため中央線は甲府から先が不通だった。というか、不通だったらしい
というのが正しい表現だ。後藤さんから連絡を受けるまで、中央線が動いているものと
信じて疑わなかった。これは小生一人の迂闊だけではなかった。後藤さんに誰も連絡し
なかったのがその証拠だ。取りあえず、新宿駅に集合して中央線が不通なら、行き先に
ついて相談することになる。わが東葛支部メンバーは今回不参加の大森さん以外柏駅6
時半に集合、揃って新宿駅南口に。先に来ていた後藤さんから、当日やっと開通し、予
定通りの行動をとることが出来ることになった旨聞き安堵する。今回の大雪は、昨日、
晴れて後遺症も少なかった。
白い東京を後に、若干遅れたものの茅野駅に無事到着する。早速タクシー乗場に並ぶが、
タクシーが出払っていてなかなか来そうにもない。20分程待ちでピラタス行きバスが
出ることがわかり、バス停に移動する。このあたりも観測史上初の大雪とのことで、除
雪車があちこちで作業中だ。交通渋滞の茅野市街をようやく脱出して、一路ピラタス・
ロープウェイに向かう。途中通学生が乗り込んできたので少しはにぎやかになるが、バ
スの乗客は我々も含めて10数名。ロープウェイに乗り継いで、山頂駅まであっという
間に運ばれる。結構な積雪量である。
縞枯山荘までしっかりとしたトレースがついており、15分位で着く。小屋に重荷を預
けて、軽装で坪庭経由の北横岳まで往復することになる。小屋の親爺は今回の大雪には
参ったと嘆いていた。3月の雪量だそうだ。今年に入って30センチ、50センチ、40セン
チと立て続けに降った由。三ツ岳経由の北横岳行きは今日中に帰ってこれないと小屋の
親爺に脅される。もともと行く気もなかった。風が強いが、晴れている。坪庭を過ぎた
ところで一本たて、稜線まで樹林帯の道を辿る。北横岳ヒュッテは営業していた。小屋
の煙突から流れる煙は心を和ませるが、素通りして頂上に向かう。徐々に風が強くなる。
もうすぐ頂上という吹きさらしで先行の鈴木さんが下りてくる。頂上は風が強すぎて長
居は無用とさっさと下りていってしまったらしい。頂上と思っていた場所に三角点は確
かにあるのだが、頂上の標識がない。するとガスが切れ、展望が一気に広がる。そして、
右手にもう一つピークがあった。あれが頂上と向かう。5分くらいだった。
頂上からの眺望は抜群だった。強風のため長居は出来なかったが、浅間、北ア、乗鞍、
御岳、中ア、南アと鳳凰など富士山以外見渡せた。五竜・鹿島、槍の穂はもちろん前穂
の北尾根が識別出来た。強風のため、山頂の儀式は風のないところでと、記念写真を収
めて下山。北横岳ヒュッテに寄って行こうか迷ったが、3時を過ぎている。そのまま下
りることにする。往きに休んだところで山頂の儀を執り行う。後藤さんは持参のビデオ
を回すに相応しくない場所だとおかんむりだった。
縞枯山荘には4時過ぎに到着。早速自炊場で宴会の準備にかかる。自炊場は我々グルー
プだけなので、遠慮無く使える。自炊場の隣りは夜用のトイレで、昼はカーテンで隠し
てある。夜にはカーテンを開け、ドアも開けるように小屋のおねえさんから念をおされ
る。開けっ放しは寒いし、臭いも心配なので、利用者が来た時には必ず開けるというこ
とで勘弁してもらう。電灯もついており、持参のランプは必要なかった。つまみはコテ
ッチャン野菜炒め、メインディシッュは後藤風餅入り八宝菜、酒は2升、ウィスキー1
本などであるが、ビールはあまり捌けない。寒いわけではないが、ビールのムードでは
ないのだろう。
小屋のおねえさんからそろそろ中に入りませんかとやんわり宴会を終わらせろと催促さ
れる。中のストーブを囲んでの2次会に移る。明日の行程について誰からも出てこない
のが不思議だった。天候が午後から崩れるとの予報の所為かもしれない。しこたま飲ん
で朦朧とした状態で3階の寝室まで這い上がる。8時半頃のことだ。
翌日曜日は予報どおり天気があまりよくない。小雪がちらついていたが、朝食の頃には
朝日が差してきた。しかし長続きしなかった。小屋のおやじが風と雪で午後からロープ
ウェイがストップするかもしれない。ラッセルで下ると3時間は見なければと脅されて、
早々に下山することになった。9時20分発のロープウェイに乗り込む。乗客は我々一行
だけ。ゴンドラの中には風対策用の30kgの重り36個が前後に並べられている。山麓
駅でバスの時刻表を見ると、次のバスは10時58分発。タクシー会社に電話すると、40分、
1時間待ちで半分諦めかけたが、最後にとかけたら30分待ちということで妥協する。行
き先は小屋の親爺から貰った割引券のプール平温泉だ。350円の入湯料が250円になる。
安い。やや熱めの温泉にゆっくり浸かり、風呂上がりに一杯やる場所を捜すがどこにも
ない。やむを得ずバス停の前のお土産やのコーナーを借用して、ビール、ワインを傾け
る。次のバスまで1時間ほどある。お店の人は不足している椅子を貸してくれるなど大
変親切で気持ちよく時間待ちできた。茅野駅に着くや間もなく到着する特急あずさに乗
車するという。駅前でてっきり仕上げをするものと思い込んでいたので、びっくりした。
定刻より遅れていたため、余裕を持ってホームに並ぶ。喫煙車に乗ろうと画策したが、
込んでいることもあって禁煙車に引っ張られてしまう。全員座れたが、バラバラ。2、3
個所に分かれてこじんまりとやる。新宿着は4時頃の到着だ。冨山、田中両人は八王子
で乗り換えるという。時間が早すぎはしないか。ということになって、両人とも新宿ま
で付き合うことになる。新宿が地元だった田中さんの誘導で小吃坊の中華で打ち上げを
やる。大雪の冬山にしては軽く、しかも冬山気分を満喫できたまずまずの山行だったと
思う。

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