二子山 ―― 初冬に行く上州の静かな山 斎藤 修

1997年12月4日


  寒波が押し寄せ、とても寒いようになってきた。日本海側は大変だろうが、関東平野
  は天候に恵まれる。このチャンスを逃す手はない。こういう日には5時過ぎに自然と
  目  が覚める。まだ薄暗いが、満点の星空。絶好のコンデション、実行に移すことに
  する。
  準備を整え朝食をとろうとすると、妻が車を使うと言い出す。昨日はそのような気配
  がなかったが、雲行きが怪しい。なだめて早く帰ることで了承させる。
 子供を駅まで送る足で山へ向かう、それが我が家の車利用の鉄則である。まだ薄暗い
  がこの時間に熊谷方面に向かうと冬の時期非常に展望がよい。行田あたりで、360
  度の展望が得られる。南に雄大に見える富士山を筆頭に、秩父・奥多摩の山がのびる。
  特徴のある両神山を境に妙義の山並みが続き、浅間が雪をいだいてそびえている。わ
  たしは、富士山と浅間山が雄大に見えるこの位置が最も好きである。昨日までの寒波
  で  雪が積もったのだろうか、赤城・武尊・日光の連山が、薄化粧している。早朝の
  展望は、美しい。
 なれた道を、長瀞を経て二子山登山口方面へ向かう。両神村までは、たびたび来てい
  るが、今日は299号線を登る。地形から細い道かと思っていたが、かなり整備され
  ており走りやすい。時折り地図で確認しながら進む。蛇行する道になると、バスの終
  点坂本である。普通はここから歩くことになるのだが、車はまだ奧までいける。
  「登人」という民宿の先が登り口になっているというので、気にしながら進む。山にへ
  ばりつくように普通の民家が建っており、その家が目指す民宿のようである。案内書
  には、トイレの標識があるが、簡易トイレが置かれているだけである(しかも一つは
  壊されている)。しかし、用を足せるだけありがたい。その先には、古くなった風呂
  桶に、水を引いていてくれるので利用できる。素朴であるが心温まる。
 林道は、この先のびているようだが、すぐ先の右側に登り口がある。非常に新しい標
  識が着けられており心強い。植林帯に付けられた、程良い傾斜の道を登る。すぐに沢
  通しの道となる。水は豊富なようで、どこでもとれる。この冷え込みで氷柱ができて
  いる。山陰になるのか、しばらく日が陰った道を登る。分厚く積もった落ち葉のクッ
  ションを楽しみながら登る。15分ほど登ると「ロウソク岩」へ登る道と分岐する。このあた
  りから山頂の岩稜が間近になる。低山ながらなかなかの威厳を呈している。冬だから
  落葉しているが、春から夏は緑に覆われた道であろう。蛇行しながら股峠をめざす。
  意外に簡単に付けた。30分で着くことができている。本当であれば、東峰をトライす
  べきであろうが、なにせ今日は時間の短縮が求められている。次回に譲り、地図を確
  認して西峰をめざす。
 やや傾斜が急になり、岩盤を登るようになる。ホールド・スタンスは十分にあり、気
  持ちよく登れる。ロウソク岩を北側に巻くように道が造られている。日陰にはなるが、
  上州の山並みが太陽に照らされている。奧には、武尊・谷川の連峰も見られ気持ちが
  よい。このあたりから、うっすらとついた雪の上を歩く。土の上から岩を登る道とな
  り急勾配となる。山頂へのルートは、直下で2つに分かれるが、どちらをとってもさ
  ほどちがいは無いように思われる。やや左ルートが岩稜帯を直登している程度であろ
  う。
 高度差があるように見えるが、一息で稜線に出られる。ロウソク岩の頂部を左に見て、
  西峰への稜線歩きを楽しむ。山頂は、標識が立てられ快適な場所である。当然360
  度の展望を楽しめる。多少頑張ったせいか、1時間足らずで山頂にいる。まだ早朝な
  ので迷ったが、持参のビールを空ける。地図を広げ山を確認しながら、のんびりとし
  た時間を過ごす。妻が子供の弁当の残りを包んでくれたので、程良いつまみもある。
  展望は、間近に迫る「両神山」をはじめ申し分ないが、叶山が鉱石の採掘のため跡形も
  なくなっている。痛ましい。のんびりしていると時間はすぐに経つ。多少寒くなった
  ので、下山する。
 ここからは、鎖場があるとガイドに記載されているのでそのあたりを注意すればよい
  のかと思い降りる。しかし、意外と緊張感のある岩稜帯が続き、歩きごたえがある。
  初心者には手強いかもしれない。高度感に加え逆層になっている部分もあり、楽しま
  せてくれる。鎖場は傾斜はあるが、短く緊張する程度である。
 鎖場を過ぎると、すぐに樹林帯になる。植林帯を抜けると、雑木林の道を降りられる。
  最初は歩き難い部分もあるが、しだいに歩きやすい道になる。程なくロウソク岩に行
  ける道に出会うが、見送る。すぐにたぶん「魚尾道峠」であろうと思われる分岐に出る。
  坂本方面を選択し下る。
 ここからは、実に歩きやすい道になる。たぶん鉄塔や植林の際に作った道を整備した
  ものだろうが、気持ちの良い道である。落ち葉が積もり、ガサガサという音を立てな
  がら、速度を増して降りられる。下降しながら、後ろに二子山を時々眺めるが、実に
  雄大である。時間ではない何か魅力を秘めた山である。あっと言う間に、林道(国道)
  に出る。車を止めたところまで、舗装道を5分程歩く。
 なんと2時間の山行で終わってしまったが、時間より、おおくの要素を楽しませても
  らったような気がする。また来て、東峰及びロウソク岩の下部を歩くことを次の課題
  にしたい。
 晴天・快晴の初冬の山は実に気持ちがよい。

自宅6:15−8:30二子山登り口8:45−9:15股峠9:20−9:35二子山西峰9:50
−小ピーク−魚尾道峠−10:45二子山登り口10:50−自宅13:00

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