久々の鳳凰三山 ―― テント団欒の心地良さを見直す

高橋尚介

1997年10月30日−11月2日


 中央高速で勝沼ICを過ぎるあたりから左手に見えてくる特徴のある鳳凰三山のスカイ
ラインはいつ見ても美しいと思う。地蔵のオベリスクも金峰の五丈岩と同様どこから見
ても間違えることはない筈……。
この前鳳凰を縦走したのがいつだったか、5、6年前だったような気がするが、もっと
前だったのか定かではない。苺平まで右肩上がりの樹林帯の道と観音から見た富士の勇
姿だけが妙に印象に残っている。白根三山の眺めが良いので、夜叉神までは何度かきて
いるが、縦走は3回目だ。
10月31日は、この山行のため会社を早退した。行動食やつまみの買い出しや準備に
当てる。早めに家を出たので集合時間の9時より30分以上も前についてしまった。一
番乗りだと思っていたら、鈴木さんが退屈そうに待っていた。おじさんがデリカを転が
してきて、大森さんとチャウこと中村さんが順次顔を見せ、9時には全員揃い、珍しく
9時15分には出発出来た。
デリカは新しいタイヤに交換したため、慣らし運転が必要とのことで、いつもにくらべ
るとスピードを抑え気味に走る。中央高速も比較的空いていて、順調に時間を稼ぐ。こ
の間おじさんがずっと運転し続けていたが、夜叉神を過ぎて道が蛇行しはじめると、酔
ってしまったとか。途中で鈴木さんと交替する。午前0時過ぎ広河原に到着。もう少し
早ければ10月中に到着できたのにと、バックシートドライバーはしきりに残念がる。
  駐車場にテントを張って、中に落ち着こうという段階で、おじさんがシュラフを忘れ
てきたと呟いた。大森さんのシュラフカバーとザック、レスキューシートなどで防寒対
策を講じることに。大森さんの包丁さばきで、恒例の酒宴となる。満天の星が、明日の
好天を約束してくれている。
晴れているが風の強い朝だ。テントを撤収して一番のバスが通るまでの間風が冷たい。
車の中に避難して時間をつぶす。夜叉神峠入口まではバスを利用する。乗客は我々だけ。
約40分ほどかかって峠入口に戻る。峠まで1時間10分ほどかかった。峠からの白根
三山の眺めは、正面が農鳥と間ノ岳で北岳は右手になり、しかも大半が池山吊尾根に邪
魔をされているが、雄大だ。鈴木さん持参の柿が評判いい。峠からはハイカーがいなく
なり、静かな山旅となる。栂の林に覆われた道は暗くて寒い。当然陽のあたる所で休憩
となる。峠から3時間あまりで苺平に着く。高橋は恒例の通り、一行から遅れ、一人後
方から喘ぎながらついていくパターン。苺平からは今夜の宿南御室小屋まで上りがない
ので、急速に体力回復。樹間から薬師が見えた。その右手に見えるのは地蔵のオベリス
クではないかと誰かが言った。大森さんはここから地蔵が見えるはずがないと、言下に
否定。でも良く似ている。翌日これが薬師のピークと判明。
南御室小屋は登山客であふれ、寝る場所が心配だったが、それほど窮屈な思いをしない
で済んだ。到着は3時過ぎだったが、早速自炊場で宴会を始める。寒いため燗酒がみる
みる減っていく。鍋ものもいかにもふさわしい。テントは改めて暖かいものだと実感し
た次第。燗酒がなくなれば、早々と宴会を切り上げて有料寝具に潜り込むしかない。長
い夜だった。

今日も好天が続く。6時起きの7時半出発。小屋の裏手からいきなりの急坂となる。薬
師小屋から花崗岩と這松の明るい路となるが、風は強い。薬師から観音へは快適な稜線
歩き。北岳が正面になり、バットレスに影が出来て迫力を増している。観音からの眺め
は絶好だ。富士、北ア、八ツ、日光、中央ア、御岳、奥秩父などきりがない。山頂で日
大習志野ワンゲル部の1年生が絶叫している。登山客が多く、ゆっくりする雰囲気では
ない。早々に通過。赤抜沢ノ頭で地蔵はどうするかという段になって、当然パスとなる。
青木鉱泉か御座石に降りるなら話は別だが、高嶺経由白鳳峠の場合、わざわざ往復して
くるのは面倒である。
高嶺でビールとワインで山頂の儀式。これを済ませると、後は酔った勢いでひたすら下
る。白鳳峠までは一投足だが、峠からの下りは長い。2時間かけてスーパー林道にたど
り着く。広河原に戻って上を眺めると北岳上部が白くなっている。昨日朝は雪がついて
いなかったので、昨夜降ったのだろう。あれほど晴れていたのに、不思議だ。広河原駐
車場横の休憩所でビールを仕入れて打ち上げの儀式を行う。登山客でもないマイカーが
絶え間なく入ってくる。何のためにこんなところにドライブするのか理解に苦しむ。余
計なお世話か。
今夜遅く戻るつもりなので、時間がある。甲府市内の温泉に寄ってから軽く打ち上げを
して行こうと衆議一決。垢すりやサウナなど併設の温泉と日曜日で営業している店が少
ない中、やっと見つけた飲み屋で仕上げる。
今回はテントと小屋泊りとのミックスだったため、シュラフを忘れるという勘違いを誘
ったようだが、テントの中の団欒がなんと心地良いものかを改めて見直す機会となった。
                                                         了

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