榛名外輪山 ―― 初冬の静かな山歩き 齋藤 修

96年11月29日


  伊香保温泉にいく用事があったので、そのついでに榛名湖の周りにある低山を歩いて
  みた。前日の宴会の余韻を体に十分に感じ、体調を整えながらの出発となった。
 ホテルの車が「群馬バス伊香保駅」まで送っていってくれるというので、最初から楽
  を覚え甘えることとした。さすが田舎町、立派な休憩所も整ったバス停があった。出
  発まで10分ほどあったので、うろうろしながら本日の行程を予習してみた。とは言
  っても最初から歩こうなどど決めていたわけではなく、出張があったのでそのついで
  に歩くことにしただけである。前日に天候をみると、良好のようなので、多少荷物に
  なるがザックと靴を鞄に忍ばせておいた。
 朝起き、宿の展望風呂にはいると赤城から近辺の山が快適に見渡せたので、つまらな
  い研修をそこそこに切り上げ実行に移そうと思った。しかし、時間の経過とともに雲
  行きが多少怪しくなり展望がなくなってくる。大したことはないだろうとたかをくく
  り決行した。
 バスに乗ると、次第に雲がなくなり榛名湖畔につく頃には、早朝にみた大展望が復活
  していた。今年の山は、大森氏と前半ご一緒させていただいたが、天気にはことごと
  く恵まれることはなった。なにやら相性の問題もあるのだろうか?、今日は快適な山
  歩きができそうである。
 榛名富士ロープウェイの駅をすぎると、バスは湖畔を走り終点に着いた。乗車してい
  たのは、私と家族連れの4人しかおらず、運転手もすこぶるサービス精神のある人で
  あった。途中でバスを止めたり徐行したりして、ワンマンの路線バスなのに案内まで
  かってでていた。とても好感がもてる運転手であった。サービスも過剰ではなく程々
  のところがよい。
 終点からは、ガイドブックの内容どうり「関東ふれあいの道」をたどる事とする。舗
  装道路を「天神峠」まで登り、ここからスタートになる。バス停の終点には、それら
  しい標識はなく多少不安であったが、始める事にした。5分程度登ると峠らしい分岐
  点になり、標識も見られ安心する。ここは、何やら石垣が築かれており、常夜燈があ
  る。スタートにふさわしい光景である。ブルトーザーの音が聞こえていたが、この近
  辺を整備しているようである。左に行くと榛名神社の標識を見送り、直進して尾根道
  を登り始める。
 このコースは、最初はピークを登り高度を稼ぐが、その後なだらかな尾根道を歩く事
  になるとガイドブックには明記されて有る。その通り、最初はなかなかの登りであり、
  ひと汗かく。15分程度の登りで「氷室山」のピークにたつ。大きな展望というわけ
  ではないが、360度の視界が開けており気持ちの良い場所である。広葉樹林でおお
  われているこの山域は、落葉すると視界が見違えるほど良くなる。夏登るのと落葉し
  てから登るのとでは、大きな違いがありそうだ。
 下りまた登るこれを2回行うと、「天目山」の頂上で有る。ここまでくると高度も稼
  いでいるせいか、浅間山・高崎方面・武尊山・谷川連峰をはじめとして見事な眺めが
  えられる。ゆっくり休んでいられる雰囲気が十分にある。ここからは、防火帯が行く
  手を導いてくれる。5メートルから10メートルほどの防火帯が尾根道についており、
  視界も開ける上に解放感のある歩行を楽しめる。右には榛名富士、正面には相馬山、
  左には遠く筑波山まで見る事が出来る。特に榛名富士は、その美しい山容を間近に見
  せている。前方に開ける防火帯の道は明瞭だが、丸太でつくられた階段は、雨水の侵
  食で独立しており歩きにくくなっている。歩く人が少ないせいか、荒れてはいないが、
  階段を避けて歩く人のトレールがこれ以上つかないように願う。
 快適に進むと、林道をまたぐことになる。この山は、観光地として、地域住民の生活
  の場として多くの道路が整備され、峠という場をすぎる度に車道と挨拶をすることに
  なる。ここには、休憩をしている壮年の人がおり、車を止めて行程をたずねている夫
  婦連れがいた。この林道は登山道を無理矢理分断し、もうけたものではなく、峠に忠
  実につけられているのでさほど歩いていても違和感がない。七曲峠をすぎても防火帯
  の道は快適についており、一人で歩くのは、もったいないような気がする。高度も下
  がっているので、景観は単調になるが、榛名富士が次第に間近となる。榛名富士には、
  ロープウエイがついている。それは、一般の大型のものではなく、ゴンドラが2台並
  列したようなものがぶら下がっていた。前方の二ツ山が見事に見え始めるのもこの頃
  である。足下は、今朝ほどの霜柱が解け始めやや滑りやすくなってきたが、選んで歩
  けば心配するほどではない。出発の際、昨日までの研修で一緒だった先生が、一緒に
  行きたいと言われたことを思い出す。私は、足元が革靴だったので心配し、ご遠慮い
  ただいたが、この辺では、革靴ではだいぶ苦労するところであったろう。
 快適な道を進むと標識があり、登りとなる。次第に道が険しくなり、細くなるが気に
  せず進むと次のピークにつく。広さはないがなかなかの展望があり、満足する。下山
  路を探し進むが、「関東ふれあいの道」とは思えない急傾斜となり、道がなくなって
  いく。気づくと、岩場に氷柱がかかり断崖の上にかろうじて立っている。とんでもな
  い場所にきてしまったものだ。躊躇することなく、戻ることにした。こういうときの
  登りは、実につらく感じる。息を弾ませ、ピークを逃げるように越え分岐点と思われ
  る標識のところまで戻る。よく見ると、まっすぐ行く道には、指示が出ていない。左
  に折れる以外道はなかったのだ。しかし、この明瞭な防火帯は罪なものである。
 再び整備された快適な道を降りると、10分ほどで松之沢峠にでた。ここも高原状にな
  った快適な峠である。車が1台止まっているが、人影はみられない。ここからも快適
  な道が続く、山容がかなり変わっており、先ほど迷った断崖が、迫って見える。左に
  行く道が何本かあるが、まっすぐ進むことにする。
 30分ほどで磨墨(スルス)峠をすぎ、磨墨岩の右を回り込むように進むと、東屋がある。
  天気がいいので外の方で一息入れる。この近辺は平坦な場所も多く、「宴会」をする
  のには最適な場所がおおい。ちょっと遠いが、梓の忘年山行にも使えそうだと思う。
 すぐに相馬山の鳥居をくぐり多少の登りとなる。ガイドブックでは、壊れそうな鳥居
  となっているが、作り替えたのだろうかなかなか立派なものになっている。相馬山の
  分岐点で、「関東ふれあいの道」は山を登らずヤセオネ峠に向かう。ここでとても頑
  丈そうな女性に出会うが、考えてみれば挨拶をした登山者は、この人だけだったよう
  な気がする。季節はずれの山は、寂しいときもあるが、気楽に歩けるものである。相
  馬山を越え、二ツ山をへて伊香保温泉へ行くルートもあるが、無理をせずふれあいの
  道をたどることにした。ここからは、相馬山を回り込むように道が付けられ、緩やか
  な下降とともに「ヤセオネ峠」につく。ここまでが、関東ふれあいの道で『榛名山の
  みち』と命名されているルートになる。
 さみしいわりには、立派なバスターミナルのある峠で、墨田区だと思うが保養施設の
  ようなものがあった。その建物を伝うように林道(舗装道)がついている、テレビ局の
  アンテナの施設が二ツ山に堂々と設置されており、その支線が山肌をまっすぐに降り
  ている。なんと自然破壊がたやすく行われていることだろうと、痛感する。二ツ山を
  間近にみられるようになると、登山道が沢づたいにつけられてある。薄暗く、寂しい
  みちになるが、途中で右に折れると「オンマ谷」の標識がある。10数分で林道に出る。
  ここからは、ガイドによると林道を伝っていくようになるが、伊香保町がつけたと思
  われる「伊香保温泉」の標識が多くあり心が揺らぐ。
 伊香保森林公園の事務所で、便所を借り帰路を急ぐ。ここは、最近どこにもある「補
  助金事業」の自然の公園ようで遊歩道プラスαの掲示板があった。どうしてもっと、
  自由に歩ける山を提供しないのだろうか、常々疑問に思う。
 その後も林道を歩くと立派な駐車場があり、程なく上の山と言われる見晴らし台につ
  く。ここからの、赤城山の景色は見事なものであり、沼田から高崎までの街が見渡せ
  る。また今日は、天気がよいので筑波山まで明瞭に見えた。非常に寂れた売店があり、
  ビールが見えたが、温泉後の一杯を楽しみに我慢する。
 少し下ると、世界的に有名な「伊香保のスケートリンク」を見渡すように道があり、
  ロープウェイの駅を横目でみながら、一気に下降する。この下りはかなり急であり、
  今回のコースは、榛名湖から下るのが絶対正解だと実感する。伊香保温泉を見渡しな
  がら降りる。温泉街が、密集していることが実感できる。下り終えると、終着点「伊
  香保神社」につける。ここまでが、『榛名から水沢へのみち』になるが、ただ終わっ
  てはもったいないので、300円で入れる町営の「露天風呂」まで足を延ばしてみる。
  簡単に着けると思ったら意外とあり、体が温まった頃に建物が見えた。はいり口に
 「橋本ホテル」と言う暴利をむさぼりそうな宿屋があった。源泉が、露天風呂のとこ
  ろにあり湧きでていた。説明を聞いても、この源泉が各宿屋に行ってるそうだが、こ
  んこんとでている各宿屋のお湯が、濃いはずはないと変な納得をした。ここで入って
  も良かったが、湯冷めを心配し、石段で有名な伊香保にきたのだから「石段の湯」に
  入るべく、来た道を戻った。
 石段の湯も300円で入浴できる。決して大きな湯ではないが、源泉から直接引いて
  いると言うこともあり、温泉の香りが十分漂っていた。私はどうも温泉は、ある程度
  濁っていないと生理的にはいった気にならないようである。程良く温泉の香り、濁り
  を満喫しながら一汗流すことができた。あとは、ホテルに預けた荷物を受け取り帰れ
  ば良いだけである。軽くなった体で下ると、酒屋が呼んでいる。群馬限定販売のロン
  グ缶を買い求め、歩きながら飲み干す。以前は、路上でビールを飲む人をなんと下品
  な年寄りだろうと見ていたが、今では何の抵抗もなく自分ができる。恐ろしいことだ。
 ホテルに戻り、荷物を受け取り渋川駅行きのバスに飛び乗る。高原帯から快適に降り
  るバスの先頭を陣取り、赤城山を眺めながらの帰路となった。渋川駅では、程なく高
  崎行きの2両編成のローカル線がつき、静かな旅となった。

  伊香保温泉10:15−群馬バスターミナル10:30−榛名湖畔10:50−天神峠11:05
  −氷室山11:30−天目山11:40−七曲峠12:00−磨墨峠12:20−ヤセオネ峠12:35
  −森林公園事務所13:00−上の山公園13:30−伊香保神社13:45
  −伊香保温泉露天風呂(源泉)14:00−石段の湯14:15 14:50−伊香保温泉旅館15:00
    15:15−渋川駅15:45

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