美ケ原散策

橋元武雄     '88/05/20〜21


メンバー  冨山 後藤 関根
        橋元 (谷内)

5月20日 晴れ。
 朝7時に、東京駅明治屋前集合。目的地は、美ケ原にある藤沢市の山荘。松本では駐車場のおじさんお薦めの「まつ嘉」というシックなたたずまいのうなぎやで昼食。ぼくは2日連続のうなぎ。わるくはなかったが東京の水準からいうといまいち。昨日の神保町の「なかや」のほうがはるかに上。食後、大町の山岳博物館を見物。展望室からの表銀座の山々が一番面白かった。付属の動物園も見たが、目玉のカモシカをはじめとしてどの動物も生気がなく、あんな飼方ではかわいそうである。ただ一つの例外は、ライチョウ。これは、国内産も、外国産のアルプスライチョウというのも、元気に鳴いていた。
 大町近辺にはいくつも博物館、美術館がありそれらにも寄りたかったが時間がなくなってしまった。帰りは明科を通る北寄りの国道を使って19号に戻り、松本城の浅間温泉側を通過して、よもぎこば林道から藤沢山荘に向かう。中学だか、高校だかのとき、たしか堀辰雄の文章で読んで以来、はじめての美ケ原である。美ケ原は、火山性の隆起高原の樹木が、山火事で消失しそのあとが草原になったという。全体が牧場になっている。その一部が風化によるものか、爆裂によるものかは知らないが広くお椀状に抉られている。藤沢山荘は、そのお椀の中央部に位置する三城(さ
んじろ)牧場の中にある。
 山荘は、植栽を工事中で、おおきなパワーシャベルが庭を占拠して興を削いだが、なかなか趣がある。木と岩で作られた、大きなお風呂も気にいった。館内放送だけはいただけない。閑静な山中でなんで割れ鐘のような大音量をださなければならないのか。

5月21日 曇りから雨。
 朝食を済ませて、百曲りのコースを美ケ原まで登る。ガスと雨で広大らしい草原の景色はさっぱりわからない。塩くれ場から美しの塔を経て、山本小屋で休息。小屋のレストランに入ったとたんに、本格的な降りになった。調べて見ると松本行きのバスが三城牧場を通るというので、時間まで酒でも飲みながら時間をつぶすことにした。昼時分だったが、今日は松本の「きそや」で食事の予定だった。しかし、いやになれなれしい店員がいて、しきりに食事を勧める。そうなるとへそまがりばかりだから、意地でも食事をしようというものはいない。これから松本まで行くと食事は3時すぎになるから、予定を変更してもよさそうなものだが、まったく素直でない。からかい半分に酒を注文するうちに、乗るつもりのバスが季節ダイヤで今日は運行しないことがわかった。“そこで”、運転当番で酒を飲んでいないチナミ氏こと谷内さんが、一人歩いて下りて車を回すという。なだめすかしても行くとはりきっているので、任せることにした。そうこうするうちに雨も小止みになり、
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食事もしないでは酒だけ飲んでいる訳にもいかないので時間をもてあまして退屈になった。結局、とにかく歩こうということになった。車道は一本道だからそれを下りて行けば途中で登ってくるデリカと行き合うはずである。
 出会いは予定どおりだった。ここまで車が来てしまったのだから松本よりも、下諏訪に下りようということになる。これが失敗の始まりである。その選択が悲惨な結末を迎えることになるとは誰も気付かず、乗り込むとすぐに寝込んでしまった。気がつくと車は下諏訪の秋宮まで下りていた。すぐ近くに児湯という温泉がある。名前からして古くからあるのだろうが、最近建て直したらしい木の香も新しい案内板が立っている。それから食事場所を探したが、これがまったくめぼしいものがない。あれこれ探しながら市内を一巡してまた秋宮に戻り、ついでに参拝ならぬ見学をする。門前のタクシー営業所で「奴」という旅館で季節料理を出すと聞いたが、いってみるとどうもぴんとこない。また、町中まで繰り出して下諏訪駅の観光案内で川魚料理店を聞いて、出かけてみるとこれが昼休み。なにしろ3時をとおに回って4時近くだから、気のきいたところは開いていない。そんなら、もっとにぎやかな上諏訪にと後藤さんの提案があり、そうしようと一決する。
 方向感覚の鋭い後藤さんが上諏訪は岡谷寄りだというので、だれも疑いを差し
はさむことなくそちらに向かって走り出す。さっきから同じ道を3回も行きつ戻りつしている。途中にあるソバ屋はどうかと関根さんがいうが全員黙殺。関根さんは川魚はあまり好きではない。しかし、みんなのイメージは川魚料理ででき上がっている。ソバ屋の先に鱒屋という看板があったので、寄ってみたがのれんを出しているのに昼休みだという。あとで気付いたがこのあたりは、休み中ものれんは出しっぱなしである。そうこうするうちに上諏訪には着かず、岡谷の標識が出てきてしまった。
 地図を調べると上諏訪は、下諏訪より東京寄りである。後藤さん、面目まるつぶれ。それではとUターンし、ついでに目にはいった別の川魚料理店に寄るがこれも昼休み。そのまま同じ道を諏訪湖に沿って戻る。同じ道を4回目である。後藤さんは、迷惑をかけたので今後発言は差し控えると言いつつもやはり一番発言が多い。上諏訪について町中を一巡し、駅の近くに来たところで、何の変哲もないが一見にぎやかにメニューの飾ってある大衆飲屋が目に入る。この期におよんでだれも賛成も反対もする気力がない。昼食の店を求めて2時間余におよぶ大捜索のすえ、泰山鳴動して駅前酒場で一件落着。冨山さんはお腹が空きすぎで、逆に食欲がなくなってしまったといい、酒も進まない様子。梓グルメの旅としてはまことに悲惨な終末を迎えた。
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