奥多摩浅間尾根 日だまり山行

橋元武雄     '87/12/05


メンバー  後藤 鈴木 高橋
        大森父娘 田中 中村
        橋元 (関根 金谷)

 朝6時15分頃家を出る。蕨、南浦和経由で、立川には7時45分頃着く。
 ぼくが最初のようで、五日市線のホームには誰もいない。寒々として、ハイキングらしい人もわずかしかいない。朝食のサンドイッチを買っていると、田中が現れた。ずいぶん大きな荷物だなと思っていると、酒が4升はいっているという。こちらには、尚やんと連絡して決めた八海山の樽酒2升とワインが2本ある。酒だけでも合計6升になる。当然ビールの2〜3gは誰か持ってくるはずだ。梓恒例の連絡の行違いである。日だまり山行ならこの程度の行違いはかえって景気付けによいだろう。また、酒の話題が増えた。
 武蔵五日市の駅からタクシーで、人里(ヘンボリと読む)まで。そこから浅間尾根に登って、五日市に戻る方向に進路を取り、適当なところで下る。もっともこのコースも田中リーダーの最初の計画とはまったく違うようだが、そんなことを気にするものは誰もいない。
 40分ほどの登りですぐに尾根に出る。途中の登山道は、カシワ、ホウ、ヤマモミジなどの落葉に埋まっている。直接陽の射さない、したがって多分霜も降りない木陰の枯草の中に、まだリンドウの花を付けているのや蕾みの付いているのがあって、驚いた。カシワ、ダンコウバイなどはまだ枯葉
のまま木に残っているものも多い。
 尾根に出たところにベンチがあり、さっそく今年の新酒のワインを2本開ける。とにかく酒の量が多すぎるのはわかっている。 いかに計画的(?)に消化するかが問題なのだ。新酒でほろりとしたところで、ほとんど平坦といえるような尾根道をしばらく行くと、ちょっと開けた鞍部がある。町中の小公園といったたたずまいで、あずまやがあって、テーブルとベンチなどがしつらえてある。少し離れてトイレまである。ハイキングというはおろか、ほとんど歩いてもいないがここで昼食。したがって大宴会になるのだが、だれも異をとなえるものはいない。
 今回の食当は後藤さんで、えびのチリソース、豚のしょうが焼に赤飯と盛沢山。八海山が2本、爛漫の紙パックが4本。さすがに人目が気になるので、余分の紙パックはテーブルの下に隠した。
 公園の横に小高い丘がある。山の中で丘があるというのも変だが、雰囲気はそうなのだ。酒が回って興がのってくると、大の大人が丘の頂上まで駆けっこしたりしている。暗い雲に覆われて寒々しかった冬空が、この頃になるとほんのりバラ色が差してきて、まるでわれわれの調子に合わせてくれているようだった。後で聞くところによると、そのころ都会の暗い雲の下では、こられなかった大亀、小亀が、今日は行かなくてよかった、などとなぐさめあっていたそうな。
 今回は御大がこられなくて後藤さんは寂しがっていたが、口の悪い関根さんは、話
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題提供者がいなくて話題吹聴者だけではつまらないなどといっている。ところがよくしたもので、そういうときは代役が立つ。今回の圧倒的主役は善さん。ビールと2升は軽く空いた
が、紙パックにはやっと手が出るほどのペースだったので、人数からしてそれほど飲んだ訳ではない。しかし、歩き出して事態がようやくはっきりした。あの健脚の善さんが歩けない。まっすぐ進めないのである。あちらにふらり、こちらにふらり、挙げ句はばったり倒れてしまう。本人は意気軒昂で、例の静岡風イントネーションで、あれー、どうしたのかな、酔ってなんかいないのに、などと言っているが。酔ってるに決まってるじゃないの。
 いくらハイキングとはいっても山道である、とにかくこの調子では、転んだ拍子に崖から落ちでもしたら怪我をする。そこで、尚やんが、善さんのザックに着いている紐二本を手綱よろしく握って、後から操縦する。まるでトキノゼンサンシンボリに跨がる騎手の気分である。両方ともいいかげん酔っ払っているし、それを囃し立てる観客も同様に酔っ払っているのだから、関根さ
んも今日ばかりは競馬場に行くより面白かったろう。もとより馬券は発売されないが。
 バス停に着くと、子供を家に残してきたので気になると大分先に下山したはずの金谷亭がバス停に待っていた。バスの本数が少ないのでわれわれと同じになってしまったのだ。ともかくまた全員が揃った。バスは空いていて、みんな座れたので、五日市駅まで1時間ほどの間をグッスリ眠ったようだ。おかげでまた健康に空腹になり、下りかけにすこし頭痛がしたのも治った。酔っ払いには付合い切れない大森父娘と、酒は飲みたいが子供が気がかりの金谷亭は先に帰り、われわれは五日市の駅前の中華屋でまた一杯となる。
 こういう状況になるたびに、やっと酒を飲み出したぼくが、金谷、大森に連れられて、連日のように新宿あたりで夜明しをしていた頃のことが、変色した昔日の写真を見るように胸に迫るのである。

追記:この翌日、12月06日は、東京都内では戦後は初めてという年内の積雪があった。
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