ガスの中の平ケ岳

高橋尚介     '87/05/02〜04


パーティー 冨山 鈴木 田中
        亀村 高橋

 昨年のゴールデンウイークに続いて、再び尾瀬を訪れることになった。昨年は至仏の頂上からスキー滑降を楽しんだが、今年はもう少し山スキーの要素を多くしたものにしようということで、『山と渓谷』4月号で紹介された山ノ鼻から平ケ岳を往復する計画を立てた。今回のメンバーは関根さんが抜けて昨年と同じ顔ぶれ。
 5月1日夜南浦和駅を後にして、関越道を快適に飛ばし、3時間ばかりで戸倉のゲートに着く。昨年と同様長蔵ロッジ横の広場にテントを張って仮眠する。シュラフカバーだけで寝た冨山さんは寒くて寝られず、小鳥の囀りを聞いてからようやくひと寝入りできたとぼやいていた。全くお気の毒としか言い様がない。
 ゲートが開く7時に再び車で鳩待峠へ向かう。まだ車も少なく、峠近くの駐車場に車を入れることができた(7時半)。峠で朝食を取って、板をザックにつけて山ノ鼻に向けてくだる。雪は所々切れ、木道が顔を出している。途中スキーを付けてみるが、うまく滑れない。板を外すのが面倒なので、雪のない所も板を付けたまま通過するというズボラなことをやったため、ガケっ淵のへずりで、ストックを突いた雪が崩れ、もんどりうって転落する。さいわい2メートル程度の転落で止まったが、急な斜面で谷までかなりの距離がある。止まらなかったらと思うと冷や汗がでる。急いで板を外してガ
ケを這い上がり、一行を追う。山ノ鼻には1時間10分ほどかかる(10時〜10時25分)。
 大休止の後、鈴木・亀村・高橋の3人は板を付けて、冨山・田中のふたりは板を担いだまま、猫又川沿いの原にでる。至仏のムジナ沢の下部をトラバース気味に歩を進めると柳平の盆地に着く(11時5分)。さらに板を滑らせると右俣と左俣の出合に着く。左俣に沿って進み、渡渉する。徐々に両岸が迫り、トレースは右上の尾根に向かって…実はこのルートが正しかったのだが…上がっている。トップの鈴木さんがUターンして、スノーブリッジを渡って右岸にでた。右手にワル沢が滝となって落ち込んでいる。ルートはワル沢に沿っているはずだが、沢沿いのルートが見つからない。そのまま沢沿いに進むことになった。いよいよ両岸が迫ってくるが、そのまま突き進む。沢は雪に埋れており、切れたところは巻いて進むが、いよいよ沢筋が迫り、滝で雪が切れているところにぶつかってしまった。前進はならず、右手の斜面をツボ足で登って、尾根にでる。尾根からワル沢を眺めると、ちょうど地図上のガレ印の所で、対岸にガケが望まれる。ワル沢が近づくまで尾根に沿って登って、沢筋に近い平坦地にテントを張る (2時30分)。
 鈴木、田中両氏が明日のルートの偵察に出る。残りはテント張りと水場の足場つくり等を分担。3時半頃から酒宴を始める。つまみ担当の冨山さんが、スモークタン、サーモン、メンタイコそれにきゅうり、なす、
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青菜の塩揉みなどを次々と皿に出してくれる。メインディッシュは、亀チャンが鶏の水炊き。モミジオロシのオロシ抜きには参った。強烈な辛さで、咳き込みながら鍋をつっ突く。明日のことを考えると酒量の制限が必要。早々にシュラフにもぐりこむ。
 5月3日(曇後雨)。6時30分板をつけて出発する。行動用の荷物だけなので昨日に比べて随分楽だ。すぐ滝にぶつかる。右手のルンゼに入る。ガケを巻くようにトラバースして回り込む。大白沢山の山腹に出る。左に登りながらトラバースを続ける。少々登り過ぎ、左折する場所を行き過ぎてしまい、滑り降りてしまったが、ちょうどガスが晴れ、左手に平ケ岳が見える。少し引き返して平ケ岳へ続く尾根にとりつく。小さなアップダウンが続く。大きな下りを終えると眼前に登りが続く。白沢岳の斜面である。まだ平ケ岳までは遠い。

 雪面に無数のクレバスが走り、右側に雪庇が張り出している。白沢岳を越すと湿原地帯と思われるなだらかな平坦地が三、四つ続いて最後の登りにかかる。先行の単独行者がスキーで下ってきた。続いて4人パーティもスキーで滑り降りてきた。ガスに雪が混じり、コンディションは最悪。雨具を着けて登る。ガスで視界が悪く、単独行者も多分頂上だろうと思うけど、ホワイトアウトのため確認は出来なかったと言う。いよいよ広い斜面になり、穏やかな登りになって、そして平らになった。赤布を付けた竹竿が三本立ててある。ここより高いとこ
ろは無さそう。
 鈴木さんと亀チャンが偵察に出るが、視界がないため、あまり遠くにはいけない。頂上と判断して、寒さに震えながら、ワインで乾杯する(11時25分〜45分)。悪コンディションの下で、 平ケ岳の頂上は踏めないだろうと思っていたので、喜びもひとしおだった。板を付けていよいよ滑降となるが、何分にも視界が悪いため、5人が一塊になって、往路を確認しながら滑ることにする。
 白沢岳の登り返しはきつかった。満足感とワインの酔いが今頃になっ てまわってきて、気怠い体を引きずり上げる。全身ずぶ濡れになり、靴の中まで水浸しになってしまう。田中さんの調子が悪そうで、遅れがち。ようやくテントサイトに戻ってきた(14時40分)。
 全員がテントの中に収まり、酒宴が始まったが、酒1升とウイスキーが300ミリリットルでは長い夜は持ちそうにないので、チビリチビリ嘗める。冨山さんのザックから再びつまみが次々とでてくる。酒が切れれば寝るしかない。夕方から雪に変わる。夜半から冷え込み、濡れた靴が凍らないかと心配になるが、面倒なので再び寝てしまう。
 5月4日(小雪後晴)。テントを撤収して、7時25分出発。小雪がちらつく程度のコンディションはまあ良しとせねばなるまい。ワル沢を渡って樹林の中を右にトラバース気味に巻くと間もなくトレースがついた正規のルートに出る。ところが昨晩降った新雪
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が板の裏にくっついて滑らない。その下はアイスバーンになっていて、急に滑ったり、ストップしたりで疲れる。その上、樹林帯の中なので枝が邪魔をする。途中景鶴山と雪に覆われた湿原を覗くことが出来た。無雪期には望めない景色だ。滑るというよりは転がりながら四苦八苦して二俣に出る。 渡渉点がみつからず、靴の中にまた水を入れてしまう羽目になった(9時20分)。
 いつの間にか太陽が輝き、汗ばむくらいだ。往路を辿り、山ノ鼻には10時20分に着く。ここからは板を外してザックに取り付ける。鳩待峠まで1時間20分かかる(12時15分)。
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