大菩薩沢

鈴木善三     '84/09/15〜16


9月15日
今にも降り出しそうな重苦しい空模様のもと大月駅に着く。昨日、田中さんより山行中止の連絡がくるんじゃあないかと思ったほど心配したが、やはりいやな天気だ。橋元さんが体調悪く来られなくなったので二人になった。
 深城まで車で入る。随分と距離がある。4千円何がしか掛かる。深城より大菩薩沢で出会い迄小金沢を行こうか林道を行こうか話し合ったが、われわれの話しはすぐにまとまる。もちろん楽な方に決まっている。
 小一時間程も歩いた頃、とうとう霧雨になってきた。
 二時間程歩いた頃、道が左に大きく曲がっている所に出た。下降点だ。しかしいきなりはしごが横になっていて濡れているので今回の山行中で一番恐い思いをした。出会いは釣り師が入っているのであろう橋も掛かっていてよく踏まれている。
 出会いからすぐにゴルジュになっていて、天気も影響してか、夕暮れのように薄暗い所をしばらく進む。
 釣り師が3人入って居たが獲物は無いようだ。
 魚留ノ滝に出る。釣り師達はここで終わり、われわれは最初から高巻だ。
 小さく巻過ぎたのか降りられなくなり、アプザイレンになってしまった。
 又変わりばえのしない所をしばらく進むと2段ノ大滝に出る。とても手に負える滝ではない。100m程もどって枝沢より高巻始めるが踏み跡がわからず、あっちに行った
りこっちに行ったりしているうちに相当高い所迄追い上げられてしまった。今度は下降点がわからずとにかくアプザイレン出来そうな所を強引に降りる。
 随分時間が掛かったが沢にもどることが出来た。
 降りた地点を調べても、どの辺りかわからない。随分上迄来たのでは無いかと思われる。
 次の滝は遡行図のどの滝に当たるかがわからないが、釜を泳いで取りつく。問題の滝はその次に現われた。右よりヘツリ気味に登り、釜があり、その上にもう1段滝がある所だ。
 田中さんが先に行く。私は田中さんが引き返して来るものと思い下で待って居ると大丈夫だから来いと言う。最初は何無く行くが、釜が渡れない。水は股くらいだから水に入れと言われ、入ると胸までつかってしまう。さっき泳いで寒かったのがやっとおさまってきたのが田中さんにだまされてしまった。やっと釜を渡り、又寒さにふるえて居ると、田中さんが登ると言うので確保する。
 田中さんが斜めから登り出す。最初は簡単に登り少し上にシュリンゲがあり、これをつかめば大丈夫だと思われるがあと少しでどうしもとどかない。しばらくがんばったが、あきらめて降りて来た。登りより降りの方がむずかしいのは衆知のこと。しばらく注意して見ていたが、もう安全と思う所迄降りて来て、こちら向きになったので、安心してルートの方を見ていると、後ろで田中さ
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んがアーと大きな声を出した。振り向くと田中さんが岩を枕にかわいい顔をして寝ている。しまったと思った。てっきり頭をやられたかと思い、一瞬どうしようかと思ったが、心配はいらなかった。すぐに起き出して大丈夫だとのこと。それにしてもかわいい顔をしていたものだ。
 しばらくルートを見てみて、今度は私が登ることになった。田中さんの取ったルートは避けて真っすぐに登ることにした。やはりシュリンゲまでなかなか手がとどかず苦労したがやっとつかまることができ無事通過する。さっきのアプザイレンのときSMCのとてもいいカラビナを拾ったが、確保した時忘れてきてしまった。おしい事をした。
 しばらく進むと沢が開けてきた。3時頃だと思う。まだ早いけれども天張ることにする。後になって見ると他に天張る場所は無かった。大降りにはならないけどずっと降り続いているなか、田中さんにたき火を命じられる。材木は沢山あるが濡れている。メタを使ってやってみる。失敗かなと思ったが何とか火が付き、時間が掛かったけど無事もえ上がり、雨の中盛大にたき火が出来て満足する。

9月16日
 今日も昨日と同じ霧雨のなかテントをたたむ。
 今回の田中さんは少しおかしい。今日も
歩き出し始めてまもなく小さな滝がある左側を行く所で、アーッと昨日の声がする。振り返ると水の中へザブーンと背中から落ちるところだった。2m程の高さだろうか。しかしあと50cm程上の方に落ちていたら岩にたたきつけられて居るところだった。
 昨日といい今日といいヘルメットの必要性をつくづく感じさせられた。
 何はともあれ以後何も無く、黒々とした岩の滑滝帯も通過し、最後はものすごく急な傾斜だが、青々とした笹に覆われたとてもいい所だ。そこを笹をたよりにひたすら登って稜線に出る。
 石丸峠はさまざま花が咲き揃い、雨にそぼ濡れて、とても印象的である。
 石丸峠よりの下り、田中さんが物凄いスピードで歩き出しとてもついて行けない。半分駆け足で、とうとう裂石まであおられてしまった。
 山はもっとゆくりと味わいながら歩いてもらわなくては困る。
 裂石に着く頃から空が明るくなり始めてきた。塩山に着いた時にはすっかり青空が広がり暑い陽射しに覆われた天気になっていた。
 それにしても山に入り始めたときより山に居る間中ずっと雨にやられ通しの山行であった。

メンバー:鈴木、田中
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