「まぼろし」の大滝ー黒部源流合宿

中村貞子     '82/08/05〜10


メンバー:CL高橋 鈴木 亀村
     萩原 中村 田中夫妻
     望月

 8月5日上野発20:53(急行越前)
久々の長い山行と、重いザックにやや緊張ぎみの面々が夏にしては涼しい上野駅構内に集まってきた。集中豪雨や台風も過ぎたし、これから天気は良いだろうと、楽観的予測。
 急に行けなくなった後藤さん冨山さんのうらめしそうな目に見送られ、しっかり確保した座席から手をふり、上野をあとにする。

8月6目
  4:50富山5:23-6:03有峰口(タシー)
  -7:OO折立8:OO-9:45三角点10:05
  -12:30太郎平小屋13:OO一薬師沢
  テント場15:45
 早朝富山に着き、はるばる遠くへやってきたという実感!
 ローカル色豊かな富山電鉄で有峰口へ。登山客はそんなにメチャクチヤ多くもなく、ほどよい混み加減。朝霧をすかしたような朝の光の中、北アルプスがみえてくる。いつも近場ですましているせいか、心なしか空気も違う。
 折立まではタクシーを飛ばし、朝食をとって8:00出発。昨夜の電車はけっこうゆっくり眠れたので皆元気。足の速い人をトップに出すとご迷惑ということで、中村をトップにソロソロとでかける。天気は良いが気温
はそんなに高くなく、登りも急ではないが、重荷のため最初の1ピッチがかなりこたえる。
 石をしきつめた登山道をひたすら忍耐で歩き、三角点で少し長い休憩。バテた望月さんも缶詰をここで2こかたづけ、以後は快調なぺ一ス。広大な薬師岳は半分雲におおわれている。まだちょっと色のあさい赤トンボがやたらに飛びかっている。
 太郎平小屋に12:30到着。この頃から晴れあがり、薬師、水晶と、目を楽しませてくれる。各々ビールやらジユースを小屋で仕入れ大休止。
 ニッコウキスゲなどの花になぐさめられつつ、アップダウンの少ない、しかしだるくなってくる道を薬師沢小屋をめざす。途中あった人の情報によると薬師沢小屋は近くに5〜6張りのテントがあるということだったので足をのばしたのだったが、着いてみるとテントのテの字もなく、あるのは「幕営禁止」の立て看板のみ。しょうがないので、黒部源流を10分位はいったところにBC設営。夜は小砂利入り特製冨山さん考案チャプスイを食べ、明日は別行動となる田中隊と共に花火大会と星見大会。他にテントもなく、心おきなく山上の第1夜を迎えたのです。

8月7日
  B,C7:15一赤木沢出合8:30-
  11:20赤木平12:OO一出合14:45-
  15:45B.C
 晴れ。きょうはカラ身なので気分も軽い。
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キリリと地下足袋&ヘルメット姿になり、重荷の田中隊とさようなら。
 赤木沢の入り口までの源流地帯が意外にたいへんで、へずり、高巻き、かなりきびしい。朝のルンルン気分も吹つ飛んで少し緊張する。約1名へずりで足を滑らせ腰まで(首までではアリマセン)つかる。
 赤木沢入り口は高巻いて、きれいなナメ滝のところに出た。それ以後、少し赤身がかった岩の美しいナメ滝の連続。緊張する場所もなく、陽射しサンサンの快適な沢登り。“丹沢とはずい分違うネ”という鈴木さんの感嘆の声に一同うなずく。全く、こんなに明るい沢もめずらしいのではないだろうか?初めての山登りの亀村さんも途中で鈴木さんにおだてられ、水泳などする大胆さ!
この先大丈夫かしらんと内心思いつつ、でも天気も良いし、ピクニック気分でそのまま進行。あまりの快適さにあっというまに終わりに近ずき、いよいよ40mの大滝と遭遇。カメラなどにその絶景をおさめ、高橋、萩原、中村は滝と向かい合うほぼ垂直の高巻き道に挑戦。あとでビビッタと告白した亀村さんは鈴木きんに連れられ別ルートをたどって無事突破。赤木平は緑のじゅうたんをしきつめたような素晴らしいところで、我ら以外人っ気なし。ここは雲の平よりもいいところだと勝手に決めつけ、ゆっくり昼食をとる。ここでカメラにフィルムが入っていなかったことが判明し、鈴木さん大後悔、一同あ然。あの美しいナメ滝をみんなに証拠写真として見せつけられないの
かと、悔しがる。帰りのルート、薬師沢左俣へは10分位で入り、単調な巨岩がゴロゴロという感じの沢を下る。滝は小さいのが3つ4つ。赤木沢ではつり人やら、他のパーティをみかけたが、ここは我々のみ。つり人にもらったイワナ1匹を大事にかかえ、急いでBCに戻る。今晩はソーメンと野菜の天ぷら、それにイワナの塩焼き。
我々のそばに大パーティーが到着し、テントを3つ設営。

8月8日
  BC7:30一赤木沢出合8:50一五郎
  沢出合11:OO-11:45祖父平13:20-
  15:30雲の平分岐16:OO-16:45三俣
  蓮華テント場
 くもり時々晴。きょうは荷物をしょっての源流遡行のためしっかりビニール袋に荷物をくるみ、泳ぐ覚悟でBC出発。昨夜来の雨のせいか、きのうへずれた所も高巻きとなる。きのう高巻いた赤木沢と源流の出会いは深い緑の水を満々とたたえた池のようで、大きな日本庭園の趣き。
 祖父平までは滝もなく、出合までの緊張感もなく、淡々と、ただあまり濡れないようにと進む。
 祖父平付近で軽い昼食をとっていると下流の方から黒い雲がゆっくりと…、高橋C.Lの“5分もしないうちに来るぞ”という確信に満ちた声に、一同おおあわてで待避。岸のちょっとした雨なら大丈夫そうな木立の中に入ったとたん、雷と雨のご到来。すぐやむかと思いきや、ますます激しくなり、ひ
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ょうも降ってくる。雷の落ちる心配はないものの、上空でゴロゴロやられるとあまりいい気持はしない。約1名雷が苦手の人、ゴロッとくるたびに隣にしがみつく。1時間も降りつづき、小雨になったところでとりあえず出発。心がせくせいか、雲の平分岐まで休みなし。かなり疲れてきたのと、ルートが単調なのとで少しイラだってくる。C.L高橋、3:00まで全然気づかなかったと後でおっしゃる。
 雲の平分岐で出合う三俣方面に向かう登山者は全員雨の身支度。気温がかなり下がったせいか、カッパを着ていても暑くない。もう1歩も動けないと弱気の亀村さんをしった激励し、三俣延華に向かう。この頃から日も射しはじめ、途中ハイマツの下につもったひょうをコップですくって今夜のウイスキー割用にもっていく。高山植物は葉に穴があいたり、花が落ちたり、被害が大きい、やっとの思いでテント場に着くと、下は密集していてゲンナリするが、少しあがって気持よい場所を確保。
 タ陽の中に槍ケ岳、北鎌尾根がそのきっぱりした勇姿をあらわし、左手には常念、大天井の山々が….日が落ちると急に寒くなり、皆んなセーター類を着こんで、今晩のメニユーを冷やし中華からカレーに変更。あたたかいものと、適量のアルコールにのどをうるおしつつ、三俣まで足をのばせた全員の気力、体力に大満足。
 きょうは自から望まぬのに2度水につかり、つらそうだった亀村さんもテント場につくとすぐビールを買いに走り、まめまめしく
働く。バテたのにこの元気と、一同彼の底力に感心する。にわか雨はあったものの、夜空には星もみえ、明日も好天と確信しつつ、就寝。

8月9日
  三俣テント場7:30-9:30双六小屋9:45
  一弓折岳11:OO-11:50鏡平12:00一
  ガレ場13:00一わさび平14:35-15:40
  新穂高温泉16:40(タクシー)一18:50松本
  20:56一新宿(8/10 4:20)
 テント場の朝は早い。今まで静かな所に寝ていたのが、4:00すぎから出発するパーティーの足音で、結局早めに起床。冨山式ニラウドン変じてワカメウドンをすすり。すっかり乾いたテントをたたむ。やけに人が大きくみえる三俣道華頂上を横目にみながら進行。途中の高山植物の名前を萩原さんと確認しつつ、亀村さん日く、山歩きらしい山歩き。小池新道に通じる道は廃道の看板があったため、弓折岳のダラダラしだピークを通過。
 ここから見る鏡平は箱庭みたいだ。混雑している鏡平を通り過ぎると、ポツポツ落ちてくる。すぐやむと思ったのにだんだん激しくなって雨具を着用し、それでもきょうは雷は頭上にこないので歩き続けていると、あっというまに登山道は川のようになり、靴もびしょぬれ、くつ下がグジュグジュいう。地下足袋の方がよかったかな、などと、下るだけだと思うと、降られても余裕がある。この日も気温はかなり下り、白い石がゴロゴロしたガレ場のあたりで雨はひと
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まずやんだが、そのまま着て歩く。
 わさび平からの林道を歩いていると、また雨が降り始め、笠ケ岳には落雷がひんぱん。こちらに危険がないと思うと稲妻が凄く美しく見える。新穂高に着く頃はまた土砂降りとなったが、無料の共同浴場で汗を流し、タクシーに乗り込む頃にはあがり、一路松本へと山道を走らせる。安房峠は今トンネルを作っていて、1/3ほど掘り進んでいるのだが、お湯が湧き出て難儀しているとのこと。これが通ったら今1時間かかっているのが10分で通れるそうだ。
約2時間のドライブで、夕闇せまる松本に到着。「こばやし」で無事おわった山旅を祝してビールで乾杯し、手打ちのそばを堪




















能。
 夜行の鈍行は予想通りガラガラで、ゆっくり飲んだり、地図を見つつ、お話ししたり、また楽に横になって寝られ、無事にまだ目のざめたばかりの新宿に到着したのであります。
 総じて天気には恵まれ、スケジユールは100%こなし、けがもなく無事下山するというほぼ完璧な山行でしたが、人数の減ってしまったのが残念でした。”こんなに長く、遠くに出かける山行はもうできるかなア”と、恩わず出た鈴木さんの言葉通りになってしまわないよう、来年も夏の山行は是非大きな企画を立てたいものである。


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