梓日だまり 静岡市内散策・賤機山・清見寺

                       橋元 武雄 '07/11/28

                         Photo by Teiko Nakamura,Takeo Hasimoto
                             ,Syosuke Takahashi & Fumiaki Gotoh



 桜えび漁出動(g)

参加 冨山、後藤、鈴木、金谷、高橋、大森、中村、亀村、橋元
■ 2007年11月23日 金曜日 快晴  静岡市街散策(先発隊)

今年の日だまりは、亀村邸をベースに、薩埵峠をターゲットにした。しかし、例によってというか、 案の定というか、楽しいながらも、本来の目的は達成できずに終わった。その経緯である。

先発隊は東京駅7時40分発の鈍行熱海行きに乗る。 東京で橋元、川崎で後藤、辻堂で冨山が乗車し、 無事に勢揃いした。東京から離れればどんどんすいてくるものと決め込んでいたが、どっこいそう はいかない。なかなかの乗車率のまま熱海で乗り換え。熱海でも大勢乗り継ぐので、直通にすれば よいものを、JRどうしの勝手な都合らしい。11時前に静岡に到着、カメちゃんの出迎えを受ける。

今日は後藤さんの希望で、静岡の市内散策。カメちゃんのガイドで、まず常磐公園を目指す。地下 街を経由して、適当なところから地上へ出る。初めて歩く市街だが、いまどきの大都会はどこも似 たようなビルが建ち、似たような店並が続く。到着した常盤公園も静岡市内では有数の公園らしい が、大きな噴水をのぞいてこれといった特徴はない。カメちゃんもはじめてで予想外だったらしい。


 常盤公園(h)

 青葉通(g)

次は家康の居城跡で、市内最大規模の駿府公園。常磐公園と駿府公園を結ぶ青葉通は、まだ若いケ ヤキの並木である。なにかの催しがあるのか、コーラスやらダンスやらの若い者に混じって、津軽 三味線も演奏されていた。残念ながら、鑑賞するほどの域には達していない。このケヤキが仙台の 並木のようになるには何年かかることか。もっともそうなると、この道幅では狭すぎる。無惨にも 幹を切断されてしまうのだろうか。

そろそろ昼時なので、途中で食い物屋を探す。どうも一発で決まる店がない。ちょっと気になるウ ナギ屋はあったのだが、焼いている匂いが美味そうでないと後藤さん。たしかに、店の表の写真を 見てもあまり美味い感じがしない。諦めて駅前の地下街で漁るかと戻りかけたところで「蝶屋」と いう、不似合いな名前のトンカツ屋があった。冨山さんも憶えのある店で、あとで調べると静岡の トンカツ専門店の草分けだそうだ。こざっぱりした白地の暖簾に好印象を受ける。老舗の洋食屋に よくあるスタイルだ。とにかくこういう場合、じたばたするほど事態は悪化するという経験則があ るので、そこに即決した。入ってみると清潔な感じがして悪くはないが、なんとも狭い。カウンタ と壁の間が1mあっただろうか。客が座っていると、壁と客の背中の間にほとんど空間がない。座っ ている客の背中をこすらずには行き来できない。それに静岡気質というのか、従業員ものんびりし ていて、傍観者のような視線で客を見ている。大きなザックを背負っているので身動きがとれない のだが、どうしていいかの指示もない。勝手に奥にあるテーブル席、といっても突き当たりのくぼ みにテーブルを取り付けた程度で、やっと4人ぐらい座れるかどうかといった狭さだが、そこにザッ クを置いて、カウンタに席を占めた。それに、店がかくも狭いというのに、従業員がやたらに多い。 それもみなわれわれと同年配だ。あとでカメちゃんが6人もいたと呆れていた。とりあえずビールを たのむと刻みキャベツが突き出しにでる。トンカツとエビフライくらいしかないので、キャベツが あてである。ローストンカツは3種類あるのだが、何の形容詞もつけずにトンカツ定食を頼む。冨山 さんは、店の人に50年ぶりだと話している。

ビールを飲みながら見ていると、冷蔵庫を開けて取り出す肉も分厚くて期待できそうである。たっ ぷり油を満たした揚げ鍋が2つあり、それぞれ温度が違うようだ。一方の鍋で揚げてから、次の鍋で もう一度揚げなおしている。トンカツ専門店ではよくある手法だ。しかし、揚げたてのトンカツを 切って、皿に盛ったあと、ドバドバと山のようにケチャップを掛けている。この店の自家製のケチ ャップで、それが自慢らしいのだが、醤油党としては、ちょっと勘弁願いたい。“おっと、みんな ケチャップ掛けちゃうの”と訊ねると、それと察して“ノーケチャップ”の声が響いて醤油がでた。 最初の2本のビールが空いて、もう2本を頼んだところで、トンカツがでてきた。衣はもう少し工夫 があってもよさそうだが、肉の味は悪くはないし、揚げも悪くはない。しかし、鎌倉の勝烈庵とい わずとも、C/Pで新丸子の福屋には及ばない。


 とんかつ「蝶屋」(g)

 駿府城趾の石垣(g)

ビールでほろりとして、腹もくちくなったところで、駿府公園へ向かう。城趾ではあるが、周囲の 石垣と一角に復元された東御門があるくらいで、公園の中にはいると城の面影はない。家康の銅像 やお手植えのミカンがわずかに歴史を偲ばせるくらいだ。日当たりのよい広場があったので、そこ の地べたに陣取り水割りでもやるか、となった。水道は目の前にあり、トイレもすぐ近くにある。 カメちゃんがつまみを探しに行っているあいだに、冨山さん持参の燗器に 話が及び、明日の賤機山に備えて、試してみることにした。携帯でカメち ゃんに連絡して酒も買ってきてくれるように頼む。 お燗器は、冨山さんが中国旅行のおり、西安の食堂で、老酒を饗されたと いう因縁もので、気に入って分けてもらったという。それを見るなり、後 藤さんが、友達にもらったお燗器とまったく同じだという。 後藤さんのも西安からの到来品だというから、製造元も同じようだ。早速、 ザックからコールマンのガスバーナーとコッフェルを取り出して湯を沸か しにかかる。11月だというのに暑いくらいの日差しだから、あっというま に湯が沸く。公園内には売店はないようで、カメちゃんがだいぶ苦労をし て5合パックとつまみを調達してきてくれた。お燗器の形状はくだくだ説 明するより、写真が早い。沸かした湯を外側の容器に注いで、その中に別 の金属容器を差し入れて燗をする。錫製という話だったが、どうやら純粋 の錫ではないようだ。内側の容器もジュラルミン風である。なにはともあ、 れ長らく懸案だったお燗器で燗をして、まずは一杯。とりあえず調達した にしては上々の酒で、昼日中の公園で宴会が盛り上がったのである。


 乱世の平成を嘆くか徳川家康(g)

 冨山さんが手にするは錫?のチロリ(g)

ほろ酔いというか、しっかり酔いというか、十分できあがったところで、駿府公園を後にして、今 夜の宴会の買い出しをする。前回と同じでよろしかろう、ということになり、徒歩で材木町へむか い、ココという酒の安売りショップで酒を、しずてつストアで食品を仕入れる。しずてつストアの 魚は、丸物はスズキ(フッコ程度)、タイ、シマアジくらいしかない。なぜ、こんなに海に近いの に、わずかしか魚種が揃わないのか不思議なところだ。まあ、風土であるからしかたがない。それ にしても、これだけの大都市だから、もう少しましな魚屋はあるはずである。次回の課題としてカ メちゃんに魚屋探索を依頼しておこう。刺身用はスズキとスルメイカにした。あとは、宴会用のつ まみもろもろと、明日の朝食用の素材を揃える。メインは、恒例、後藤さんのスパゲッティである。 1名を例外として、還暦をとうにすぎた男の子どもがザックを背負い、両手に買い物袋をぶるさげ て、町中を列をなして歩くのは目立ったことだろう。

遅くなるはずの善さんがまず一番乗りして、尚やんとチャウ、それに愛用車持参の金谷氏も合流し、 今日のメンバーは無事集合。しかし、カメ邸の宴会場は四畳半。それに流しと冷蔵庫があるとあっ て、明朝合流の大森氏をいれると全員で9名にはいかにも狭い。その人数で、仙台で使っていたコ ンロ付きの四角いテーブルを囲むわけだが、どうやりくりしても、いかんせん椅子が足りない。カ メちゃんが、いろいろありのドラッグストアへ椅子を買い足しに走った。スズキのサクを果物ナイ フで下ろすという荒技だったが、紙パックの鬼ころしという酒もなかなか、金谷氏がわれわれと同 じ店で買って差し入れてくれたボージョレ・ヌーヴオもなかなか。例によって例のごとくだが、こ の宴会が、楽しくなかろうはずはない。

2007年11月24日 土曜日 快晴、静穏 賤機山(臨済寺、浅間神社)

牛肉山盛りのサラダと野菜炒め、パンなどで朝食を済ませる。大森氏の到着を待って、10時過ぎに 出発。金谷氏は膝が痛むので山は棄権。自転車で近辺を回るという。まず妙見下バス停の名前の由 来である妙見山井宮神社を訪れる。さほど大きな神社ではないが、家康が三河から勧請した水の神 様だという。境内は苔むして寂れ、社殿の屋根は防水のためか布きれで覆われている。次は浅間神 社へ向かうはずだったが、いつどうなったかはしらないが、予定変更。近くの円成寺から林道を経 由して直接尾根へ出ることになった。となると、行動食をまず用意する必要があり、近くの肉屋の 手羽先揚げとか、ドラッグストアのパンなどを仕入れる。


 妙見山井宮神社(n)

 さほど大きな神社ではない(g)

けっこう急ではあるが舗装された林道がほぼ尾根の直下まで続き、なんなく尾根筋へ出る(10:50)。 出たところは公園風に整備されていて、静岡の戦禍犠牲者を慰霊する観音像と、B29の墜落搭乗者 慰霊碑がある。浅間神社からくると、ここまで登りが続き、このあたりがひとつのピークになって いるらしい。後藤さんと冨山さんが慰霊碑に静かに手を合わせている。それを見ると、戦争の身近 さというか、戦禍を膚で感じた世代と、わずかな差だが、われわれの世代との経験の違いを感じる。


 戦禍犠牲者観慰霊の音像(h)

昨秋訪れた城北公園のグランド(h)

 サネカズラ(h)

一角に静岡の中心部を見下ろす絶好の宴会場があるのだが、いかんせん昼にはまだ間がある。さら に縱走をつづける。なだらかに起伏を繰り返す尾根だが、両側には茶畑やミカン畑が迫り、所によ っては作業小屋らしきものもあったりと、人気くさい山道である。途中に賤機山城塞跡がある(11 :25)。関東以北の山に通い慣れているものには、このあたりの植性はなかなか興味深い。尚やんも 珍しい木が多いと感心している。道に沿って密に植わっているイヌマキは植栽であろうが、関東で はあまり見ないホルトノキがあったり、エノキの幹が二抱えもありそうなほど太く育っていたりす る。常緑樹の深緑が優勢な森に、イヌビワの紫の実や、サネカズラの真っ赤な実、イシミカワの青 い実などが色を添えている。季節柄花は少ないが、チャノキのほか、キツネノマゴ、イヌホウズキ などが咲いていた。


 臨済寺をのぞむ(g)

 賤機山城塞跡(n)

 おおきなエノキ(g)

 賤機山尾根をふりかえる(n)

左、光明への看板のある分岐を過ぎて、しばらく林間を行ったところで、東側が明るく開けて斜面 に畑が広がる。時間もよし、ベンチも据えられていて絶好の場所だ。少し風はあるが、この季節に しては日差しが強くて寒くはない。異議なく昼食となる。まずはカメちゃんお気に入りの手羽先揚 げとビールで乾杯する。さて、冨山さんのお燗器で燗酒にしようと湯を沸かそうとしたが、コンロ がない。いくら探してもない。ガスもコッフェルも水筒もあるのに、コンロがない。公園でのテス トは万全だったが、本番にコンロがなくては、燗酒は絶望。みんなにからかわれながら、冷や酒を やるしかなかった。あとでカメ邸に帰って調べると、ぼくの寝た部屋とは違う部屋の枕元にコンロ が転がっていた。昨日、いったんザックから荷物を出したあと、部屋を移ったので、そのときしま い損ねたのだ。今朝は、サブザックに荷物を詰めたあと、大きいザックに必要品の残っていないこ とを確認したが、意味がなかったわけだ。


 昼食には絶好の場所(n)

 燗酒にしようか・・(g)

 ありゃコンロがない、燗酒は絶望(g)

 市の中心部が望める(g)

昼食後、尾根を北へさらに縱走をつづけて、手入れの行き届いた広い茶畑にでる。そこを抜けると 林道だ。あとはそれをだらだらと下って、縦走路へ取っついた側と反対の国道(麻畑街道)に降り た。この街道と国道1号の高架橋の交差するところにある池谷のバス停からバスに乗る。大森氏と 尚やん、それにガイドのカメちゃんは途中でバスを降り、臨済寺と浅間神社を訪問し(あとで聞く と、臨済寺は座禅中で境内へ入ることができなかったという)、ココで酒類を仕入れて帰ることに する。残りは買い出しに駅まで行った。しかし目的の水産店は改装中で休み。冨山さんが、新静岡 の周辺はどうかというので、地下道からそちらを目指したが、途中でバラバラになってしまった。 携帯で連絡を取りながら、やっと新静岡センターで落ち合ったが、ここにもめぼしい店はない。結 局、バスで戻って昨日のしずてつストアで買い物をすることにする。携帯で連絡してしずてつスト アの最寄りバス停を訊いて降りると、そこにはすでにココでの買い物も終わったカメちゃんたちが 待っていた。カメちゃんたちはもう分担の酒類買い出しは済んでいるので、しずてつストアの位置 を訊いて分かれる。今日の刺身は養殖のタイとスルメイカ。あとは適当に買い出しをする。明朝の 食パンは、昨日も買った別のパン屋にしたが、途中で、パンが残り少なく2斤しか買えなかったと連 絡が入り、こちらでも1斤買い足すことにした。


 手入れの行き届いた茶畑(n)

 はるかにおおきな安倍川の流れ(g)

 臨済寺正面(t)

 座禅中で入れなかった(t)

 浅間神社(t)

 拝殿(t)

予定では美肌湯(びじんゆ)で汗を流すはずだったが、800円は高すぎると却下。帰ってカメ邸の風 呂ですますことにしたが、単独行の金谷氏は美肌湯へ入ったという。話を聞くとどうやらアルカリ 泉である。 今日の宴会は、昨夜は参加できなかった大森氏がひとり元気で、冨山さんも爆発の気配は見せたの だが、さすがに音が筒抜けのアパートとあって、セーブがかかったようである。昨日不調だと静か だった善さんも十分寝たせいか今夜は元気を取り戻し、金谷氏差し入れのボージョレなども2本空い て、12時過ぎまで賑やかに宴会はつづいた。

2007年11月25日 日曜日 快晴、静穏 臨済宗巨鼈山清見寺と由比港

 亀村邸の朝・書斎(n)

 同ダイニングルーム(n)

朝食のあとカメ邸の掃除を済ませ、10時に出発。バスで静岡駅へ出て、JRで興津駅へ向かう。 車中、ちょっとした事件があった。われわれは最後の車両の先端部左のトイレ近くに乗り込み、そ の脇の広いスペースにザックを置いて立っていた。トイレのドアの前あたりに、小さな女の子をつ れた若いお母さんが立っている。しばらく電車が走ったところで、お母さんの甲高い声が響いた。 “だめじゃない、押しちゃあ!”と、悲痛に繰り返している。どうも、女の子が電車の非常停止ボ タンを押してしまったらしい。ボタンの位置は、大人の膝上くらいで、ちょうど彼女の目の前にな る。透明な蓋があるので偶然には押されないようになっているのだが、目の前に赤い大きなボタン があれば面白そうだから蓋を開けて押してしまうのはやむをえない。やがて電車は急停止して、車 掌が飛んできた。車掌はポケットから紐付きのキーを出して、非常警報装置をリセットする。無邪 気な女の子の仕業では叱るわけにはいかない。お母さんの言い訳を聞いただけで、車掌室へ戻って いった。いったん非常停止するとすぐには動けないようだ。車掌室を見ていると、だいぶ長いこと 電話で連絡をとってから、あやしげな呂律で意味不明の説明があって、やっと運転が再開された。


 清見寺総門(g)

 境内をJRの路線が横切っている(g)

興津駅の手前で清見寺が車窓から見える。というより、清見寺の境内をJRの路線が横切っているの だ。駅から歩いて20分ほどというので、歩くことにする。後藤さんは腰痛が出たのでタクシーにし て、冨山さん、大森氏も同乗した。駅前にサバ寿司の広告があったので、その店へ寄り道してみた が、本日休業。線路脇の狭い道だが、清見寺までとぎれることなく続いていた。線路沿いに接近し たので脇門から境内へ入った。禅宗とはいえ、臨済寺のような張り詰めた空気はない。おおらかな 感じのお寺で、手前の潮音閣という大きな建物や鐘楼などのゆったりした屋根の曲線が好ましさを 醸し出す。このお寺、いっぺんに気に入ってしまった。ここの山号である巨鼈(こごう)の鼈はそ れだけでも巨大なカメの意味で、背後の山をそれと見立てているのだろう。 巨亀、大亀、小亀と3 匹が、勢揃いしたことになる。この寺は、白鳳年間、東北の蝦夷に備えて、ここに作られた関の傍 らに建てられた仏堂が起源というが、そのころだとはたして仏堂か祠かははっきりしないのではな いか。


 庫裏2階から庭を望む(g)

 “謡曲「三井寺」に出ず”とある(n)

 おおらかな感じのお寺(n)

入ってすぐの鐘楼に“謡曲「三井寺」に出ず”と説明板があったので、あとで調べてみた。この曲 のシテは清見関の出身で、狂女となって拐かされた我が子を探して三井寺へくる。そこで鐘が鳴る のを聞いたシテは、“面白の鐘の音やな、わが古里にては、清見寺の鐘をこそ常は聞き馴れしに… ………”と、懐かしがって自分も鐘を撞こうとする。寺僧に押しとどめられるが、それを押し切っ て撞いてしまう。その音がきっかけで、わが子と再会できるのである。


 山懐の五百羅漢(n)

 似た像が見つかるかも(n)

本堂を正面に見て左手の山懐に五百羅漢が所狭しと配置されている。ここの羅漢さんは、ことのほ か表情が豊かである。説明板に、藤村の小説『桜の実の熟する時』にこの寺の羅漢が登場するとあ り、その一節が引用されている。そこでは、主人公の知人に似た羅漢を指して、誰がいる彼がいる と大勢を列挙している。これを読んだ大森氏は、“こじつけだ”と切って捨てていたが、天を仰い で慨嘆するもの、書物を開いて耽読するもの、端然として瞑想するものなど、多種多様だ。一人や 二人なら、あるいは似た像が見つかるかもしれない。


 仏殿(g)

 大方丈内部(g)

境内を一渡り見て、入場料を払って伽藍内部と庭園を拝観する。金谷氏はパス。この寺は古いだけ あって、歴史上の人物が数多く訪問したり、滞在したりしている。臨済寺もそうだったが、ここに も今川の人質として家康が滞在し、学問をしたとある。本堂裏の小さな居室が、家康の手習いの間 を復元(素材は一部実物)したものだそうだ。本堂の裏に庭園が広がる。滝の掛かる裏山を借景と して、前面の瓢箪池と、それを囲む石庭など、いかにも禅宗風の山水が広がる。手習いの間所は狭 い部屋だが、そこからみた庭園が、一番眺めがよいかもしれない。それにしてもここは、東司が多 い。展示用のものもあるが、実際に使われているものもある。家康が好んで訪れたというし、朝鮮 や琉球の使節団、それに明治天皇や東宮として大正天皇も滞泊しているので、大勢の人間が伺候し たであろう。たくさん必要だったわけだ。


 名勝庭園(n)

 脇門(n)

この寺にこれだけ多くのひとが足跡を残しているのは、たんに関所近くにあって本陣としての役割 を担っていたばかりでなく、ここからみる景観が一品だったからではないか。絵地図を見ると、高 台にあって南面する清見寺の前面に、清水港を抱き込むように美保の松原のある岬が突きだしてい る。想像するだに絶景であったろう。しかし、惜しむらくは、現在では、密集する市街のあちこち には大きな工場が建ち並び、それらを国道・高速道の高架橋が縦断して、風情もこそもあったもの ではない。 清見がた沖の岩こす白波に 光をかはす秋の夜の月  西行 …………は、夢のまた夢である。

さて、清見寺が終わると、今回のメインターゲットである薩埵峠だが…………あっさり峠行きはパ スとなった。もう12時を回っているので、薩埵峠の宴会と由比の桜エビの宴会とを天秤に掛ければ 当然の成り行きか。カメちゃんの長らく温めた計画も一瞬に泡と消えた。もちろん次回ということ である。

興津駅へ戻る途中にMaxValueがあったので、そこで宴会のつまみを補給する。ビールは自転車の金 谷氏に依頼。興津駅へ着くか着かずかで、上り電車が来て、それに飛び乗る。興津から由比までは 一駅だ。由比駅からすぐに海岸へ出られるとおもいきや、出口は山側にしかない。駅と海岸の間に はJR東海道本線、東海道バイパス、東名高速と並走していて、幾重にも障壁がある。しかたなく、 上り方向にある『桜エビ街道』のゲートをくぐって、JR山側の旧東海道を行く。550mほど歩かされ、 JRの下をくぐって由比港へでる。さすがに由比の港には、百艘に余るほどの小型の漁船がもやって ある。由比名物桜エビのかき揚げの店は、人だかりですぐにそれと知れる。ぼくが着いたころには、 金谷氏がもう行列に末尾にいた。店は一軒だけで、屋内の椅子席はなく、すべて持ち帰りである。 その場で食べる客のために各所に簡単な椅子とテーブルが配置してある。青空食堂だ。そこで宴会 はいかにも梓らしくないので、海辺へ出ることにする。もとへ戻るようにして港の荷揚場を横断し て、高架になっている国道、高速のトンネルをくぐって海側の堰堤へ出る。左右どちらへもゆける が、左の突堤の突端、白灯台の先を宴会場と決めた。


 桜エビ街道(n)

 由比の港(g)

快晴で暖かいというより暑いくらいの日差し。宴会には、絶好の条件である。早速、金谷氏ご足労 のビールと桜エビのかき揚げで乾杯。カリカリに揚がっていて、歯ごたえは心地よくほどほどの塩 味である。しかし、桜エビの旨みは感じられない。まあ、名物になんとやらである。さしもの梓も、 昼となく夜となく、連日に及ぶ宴会の最後とあって飲み疲れ、喰い疲れか、いささか盛り上がらな い。近くの釣り人は、キャッチ・アンド・リリースするのはよいのだが、生き物への配慮などさら さらなく、釣れた魚を足で踏みつけ、手荒に鉤を外して、海へ蹴り戻している。漁労関係者で食う 魚にはことかかないのだろうが、見ていて気分のよいものではない。


 突堤の突端の宴会場(n)

 いささか盛り上がらない宴会(g)

そろそろ宴会も切り上げかというころになって、桜エビ漁の漁船が出航をはじめた。われらのいる 突堤と、高架下の堰堤のあいだが航路で、その幅は50〜60m。港内から出るには、高架下のトンネル でUターンし、われわれの前を通過して、外海へ抜ける必要がある。ターンが終わるまでは港内スロ ーなのだが、ターンが終わったところ、つまりわれらが眼前でスロットルを全開して急加速する。 そんな船が何艘も、何艘も繰り返しやってくると、いままで静かだった青い海はスクリューにかき 混ぜられて白濁し、舳先で押し分けられた波が両側の堰堤に反射して幾重にも波頭を連ねる。まる で航路の海水全体が、巨大なバケツの中で揺すられているかのように躍動して、勇壮な雰囲気につ つまれるのである。ひとしきり出航騒ぎが収まって、はるか沖合に目をやると、おびただしい数の 船が白い船尾を見せて遠ざかっていった。


 スロットル全開(g)

 つぎつぎと外海へ(n)

善さんが地元のひとに訊いたところでは、出航した船は80艘あまり。通常は、この時間には出航し ないが、今日は漁場が大井川沖で、いつもより遠方のため早めの出航となったという。あんたらは 運が良いといわれたそうだ。すこしダレ気味の宴会もこれで最後の仕上げが決まって、気分よく打 ち上げとなった。由比駅では、下り電車が先にきたのにカメちゃんは居残ってくれて、その見送り を受けて帰途についたのである。


 由比駅(g)

 カメちゃんは居残って見送り(n)

毎度のことながら、カメちゃんには二宿多飯の恩、感謝、感謝であります。次回こそは薩埵峠を制 覇する覚悟で訪静しますから、カメさま、是非ともお見限りなく。

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