キタダケソウを見に行く『南アルプス・北岳』

                       大森 武志 '07/07/04

                                     Photo by Takeshi Omori


 
    キタダケソウ

日程:2007年6月29日〜7月1日
メンバー:鈴木善三、大森武志

 キタダケソウを見てみたいと、かねてから思っていた。しかし、何しろ花期は6月中旬か ら7月初め。梅雨の真っ最中である。しかも近年は北岳への入山ルートが厳しく規制され、 7月1日の山開き(今年は6月30日)まで、山梨県側からアプローチする手段がない(後で わかったことだが、長野県側の戸台経由なら6月15日から入山できるらしい)。  そこで、山開きと同時に登る計画を梓の掲示板にアップしたら、善さんが同行の意思を書 き込んでくれた。

■29日(金)  20:30に善さんをピックアップ。都心を抜けるのに手間どったものの後は順調で、白根I Cで下りて芦安に向かう。ちなみにこのルートは南アルプス市(なんと独りよがりで傲慢な 名前か)のHPによったものだが、甲府昭和ICで下りるいつものルートと比べ、料金は高 い上に時間的なメリットはない。どうやら、高速の利用者を増やすための南ア市の策謀のよ うだ。  23:30、バス乗り場の向かいにある市営駐車場(南アルプス温泉ロッジの駐車場でもある) に到着。例のマイカー規制というやつで、ここから先はバスかタクシーを使うしかない。い つもの小宴会の後、雨が降っていたのでテラノの後部座席を倒して仮眠する。善さんはスペ ースにスッポリ納まっていたが、こちらは頭と足がつかえて窮屈だ。。

■30日(土)  5:00起床。5:40のバスにする予定だったが、目の前がジャンボタクシーの乗り場で、あ と2人で出発するというのであわてて乗り込む。ところが夜叉神峠に着くと、ゲートが開い ていない。昨夜の雨で林道の一部が崩落し、土砂をどけないと車が通れないというのだ。な んたることか、せっかく天気も好転しつつあるというのに……。  しかし、待つしかない。10:00までなら仕方がないと腹をくくっていたが、1時間足らず で開通した。車中から見るにそれらしい形跡もなく、もしかするとガセ情報だったかもしれ ない。広河原到着7:30。  大樺沢沿い(かつての左岸通しではなく、道はおおむね右岸につけ替えられている)に2 時間ほど歩くと、雪渓が現れた。なるほど、雪が多い。大樺沢ルートはピッケル・アイゼン 必携という南ア市の警告に従い、きのう急いで買ってきた6本爪アイゼンを装着する。やが て雨が降り出し、腐れ雪の登高に気分はさえない。


   二股から大樺沢.

 二股を過ぎるころには、かなりへたばってきた。若い連中にどんどん追い抜かれるので、 ついペースを乱してしまったせいもあるが、やはり運動不足と体力の低下は否めないようだ。 大樺沢上部の、八本歯のコルから派生する支尾根の末端までたどりついて大休止。ふと背後 を見上げると、明瞭な踏み跡がついている。夏道に違いないという誰かさんの説もあり、こ れを登ることにする。


   大樺沢上部

 ところが、やはり失敗だった。すぐに踏み跡はなくなり、ヤブこぎが始まる。雨は上がっ ていたが、岩の上に密生するコイワカガミも、右側から迫ってくるバットレスも眺めている 余裕はない。30分ほどでようやく、木の梯子が連なる夏道と合流した(たぶん、そこまでの 夏道は雪の下で、踏み跡はバットレス見物用だったと思われる)。  八本歯のコルから少し登ったところが北岳山荘にいたるトラバースルートへの分岐点で、 そこから数分歩いた斜面に、キタダケソウは群生していた。キタダケソウは北岳の固有種で 花はハクサンイチゲによく似ているが、草丈はたかだか10センチあまり。ハクサンイチゲに 比べ可憐で、そこはかとない気品も漂っている。少し盛りは過ぎていたが、念願のご対面で ある。曇り空で光線の具合はよくないものの、降られるよりはまし。疲れも忘れてシャッタ ーを押した。

 たっぷり休んで行動食を流し込んだ後、北岳と間の岳を結ぶ稜線をめざし、登りにかかる。 トラバースルートの入り口に、積雪が多く危険だから通行は避けるよう、張り紙がしてあっ たからだ。稜線に出ると、あとは下り。小屋の周囲にもたっぷり雪が残る北岳山荘に着いた ときには、すでに16:00を回っていた。  早速、持ち込んだビールと日本酒で一杯やっていると、トラバースルートで滑落事故があ り、小屋のスタッフが救助に向かうという。命に別状はなかったようだが、小屋側の態勢に も不備があったような気がしてならない。この小屋を宿泊地に選んだ登山者のほとんどは、 トラバースルートを当てにしていたはずだからだ。当然、小屋側は雪渓にステップを切って ベンガラを撒く(北ア方式だ)などルート作りをすべきだし、それができないならはっきり 通行禁止にすべきで、あんな中途半端な張り紙1枚で済ますのはおかしいと思う。  ともあれ、バテた身体にアルコールの威力は絶大で、19:00ごろには深い眠りに落ちてい た。

■1日(日)  朝食を済ませ、6:00出発。濃いガスの中、雨具を着けて歩き始める。八本歯へ下る道との 分岐でしばらく休んで花の写真を撮り(チシマアマナとチョウノスケソウを発見)、北岳山 頂へ。頂上は厚い雲に覆われて富士山も八ヶ岳も見えなかったが、肩の小屋に下ったころに は夏の陽射しが差してきた。 ここで、家庭用カセットコンロ持参でウレタンマットをリュックにくくりつけたインド人4 人に会う。インド北部にはもっといい山がたくさんあるだろうと言うと、自分たちはバンガ ロールの住人で、北のことは知らないとのこと。愛想はいいけど行動はバラバラで、全然ま とまりのないグループだった。


   チシマアマナとチョウノスケソウ

   キバナシャクナゲ

 キバナシャクナゲの咲く尾根をダラダラと下っていくと、向こうから10人ほどのグループ がやってくる。御池小屋から登ってきたのかと善さんが聞くと、道を間違えて引き返してき たのだという。目の前の明瞭な登山道は小太郎山へ続く道で、広河原に続く道はどうやら稜 線を離れて斜面を下っており、ほとんど雪で覆われているようだ。それにしても、分岐点に 指導標が見当たらないのは困ったものだ。


   ミネザクラ

 少し下ると道は2つに分かれ、左の御池小屋方向に進む。7月にはシナノキンバイで黄色 に染まるという草すべりはまだ緑が萌え出たばかりで、ミネザクラが咲き残っている。1時 間ほど歩くと、眼下に白根御池が見えてきた。かつて、30年ほど前にここを通ったときには 御池小屋周辺はゴミの山で、小屋を横目で見ながら急いで通り過ぎたと記憶している。  ところが、今や様相は一変。小屋は場所を移して建て直され、周囲は実にさわやかな林間 の幕営地になっている。池山吊尾根の眺めもよく、雲が晴れれば鳳凰三山の薬師岳も眼前に 迫っているはずだ。ここをベースにして、空身で北岳に登ってくるのもいいだろう。


   新・御池小屋

 小屋でビールを買って梓流の昼食を終え、最後の下りにかかる。善さんから沢沿いに咲く 赤い花の名前を聞かれ、サクラソウと答えたが、もしかすると日本桜草ではなく、クリンソ ウだったかもしれない。写真がないので、今となっては確かめようもない。また2人とも見 たことのない珍しい花は、善さんのリサーチによってイチョウランと判明した。 広河原到着、12:40。きのうは濁流だった野呂川が、いつしか本来の清流に戻っている。タ クシーの乗り場に行くと、冷たいオシボリとお茶のサービスだ。これでバスの運賃(1000円) と100円しか違わないのだから、バスに乗る手はない。しかもゲートが開いたとたんに走り出 すタクシーに比べ、バスの芦安到着はかなり遅れるらしい。ひと風呂浴びたころにバスは着 くと、タクシーの運転手は言っていた。  その運転手の勧めで、少し下った金山沢温泉(550円)に向かう。露天風呂が気持ちのいい、 小ぢんまりした公衆浴場だが、梓向きではないかもしれない。なにしろカランが3つしかな いし、湯上がりのビールはスーパードライのみで、これといったツマミもない。中央道は例 によって、小仏トンネルを頭に談合坂まで渋滞。柏到着はちょうど19:00だった。

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