白山(別山)

                       大森武志 '05/08/8-11

                                   Photo by Takeshi Omori



 御前峰と南竜ケ馬場(油坂の頭から)

■平成17年(2005)8月8日 柏ICから常磐道に入ったのは、23時5分前だった。外環から関越、上信越から北陸道は いずれも車が少なく、快適なドライブ。金沢西ICで下りてR8からR157に入ると、ほと んどの交差点は点滅信号で、ここも快調に飛ばす。市ノ瀬からは、別当出合に続く山道に 入る。9日から11日夕方まで市ノ瀬・別当出合間のマイカー規制が解除されることは、あ らかじめ調査済みだ。  5時、別当出合の駐車場に着いた。あたりはすでに明るく、3割方、車で埋まっている。 早速、ビール。柏からここまで580kmの緊張をほぐすには、これが一番だ。


 別当出合の駐車場

8月9日  少しばかりウトウトしたと思ったら、ヘリの音で目が覚めた。もう荷上げが始まってい るのだろうか。車の中も暑くなってきたし、出発するしかなさそうだ。  この駐車場は、別当谷の川床近くまで下りた位置にある。砂防工事用の、資材集積所跡 かもしれない。おかげで、別当出合の休憩舎まで約500mの坂道を登らなければならない。 7時30分、軽量化に努めはしたものの久々の重荷を背負って、恐る恐る歩き出した。  吊橋を渡って、砂防新道に入る。たちまち噴き出す汗。しかし感触は――悪くない。ほ ぼ50分で中飯場。立派な水洗トイレがある。水を補給し、休憩する。夏休みのせいか、家 族連れが多い。近在の人々にとって、白山は身近な山なのだろう。次の一本は別当覗きを 5分ほど登った所。そして、甚之助避難小屋でまた一本。  ここから20ほど登って室堂への道を分けると、とたんに人が少なくなった。やがて道は 緩やかな下りになり、南竜ケ馬場に到着(12:00)。南竜山荘の前に建つビジターセンター (セントラルロッジ)で、幕営料を払う。3泊申し込んだが、1日分のみ受け付けるとい う。大方、払い戻しの件でトラブルがあったのだろうと思ったが、そうでもないらしいこ とが後でわかった。

 テント場は閑散。5張ある貸しテントも無人で、設営場所は選り取りみどりだ。何はと もあれ、炊事場の水で冷やしたビールで乾杯。少なからぬ疲労に寝不足が重なって、アル コールの効果はてきめん。気がつくと、2時間以上眠っていたらしい。  夕方、周囲の偵察に出かける。すると、懐かしい人に出会った。昔、兎山岳会のころに 一緒に登っていた大村さんである。学校時代のワンゲルの仲間という、添田さんと二人連 れだ。昨日は室堂に泊まり、今日は御前峰からお花松原をめぐって、南竜山荘に宿をとっ たというではないか。奇遇である。そして嬉しい再会である。  明日は、別山から千振尾根をたどって市ノ瀬に下りるという。それでは別山まで一緒に と約束して、2人と別れた。

8月10日  午前1時半、テントを打つ雨の音で目が覚めた。やがて風も強まり、明け方には土砂降り の雨となって、マットの下からもテントの側面からも浸水が始まった(テント周囲の溝切 りなど、すっかり忘れていた)。こうなったら、逃げるしかない。荷物をザックに詰め込 んでおき、小降りになったところを見計らって炊事棟に避難した。ラジオを聞くと、石川 県に大雨洪水警報が出たという。  6時過ぎ、大村さんが朝食を一緒にと迎えに来てくれた。炊事棟で呆然とたたずむしか なかった当方には、願ってもない誘いである。ビジターセンターでは添田さんが待ってい て、朝食の支度ができていた。どうせ今日は停滞だからと、早速ビール(\450)を購入す る。2人は別山をあきらめて、砂防新道を下りるという。この降りでは、やむをえない選 択だろう。


 ビジターセンター2階の休憩室

 朝食後にセンターの2階をのぞいてみたら、立派な休憩室がある。何時まで使えるのか 聞いてみると、24時間オープンというではないか。これを利用しない手はない。雨具を着 込んで、炊事棟まで荷物を取りに行った。テントは、張り綱を補強して置いて行くことに する。8時半、また激しくなった雨の中を、2人は山を下りていった。登山道は、きっと 川になっているだろう。  センターの休憩室は、すこぶる快適だった。どうやら、今日のような荒天を逃れてきた 登山者には随時開放し、場合によっては宿泊も認めるというシステムらしい。植物図鑑を はじめ参考書類も揃っているし、水割り片手に「雨読」を決めこむことにする。 センターには学生アルバイトと自然観察員のオバチャン、ではなくおねえさん(根上さん) が寝泊りしているようだが、この根上さんが実に親切。濡れたシュラフや衣類を乾かすた めに、わざわざ2階まで石油ストーブを運び上げてくれた。その上、夕方になって雨が上 がると、周囲の植物についてガイドしてくれるという。1対1の個人授業だ。夕食後は南 竜山荘の宿泊客と一緒に、白山の解説ビデオも見せてもらった。

8月11日  5時15分。寝過ごしてしまった。根上さんに勧められるままにマットと毛布にくるまり、 ヌクヌクと眠ったせいか?  そそくさと支度を終え、5:35にセンターを出発した。昨夜の予報では、午後から雨。 濡れねずみはもうごめんだ。  野営場下の湿地帯の木道が途切れると、道は一気に下りになる。沢を渡ると、今度はひ たすら登り(油坂)だ。6時半、油坂の頭に到着。空は暗いが、北方には御前峰(ゴゼン タチバナの名の由来)、南には別山へ続く峰々が望まれる。南竜ケ馬場ではまだ実の硬か ったクロウスゴが、ここまでくると黒く熟している。  油坂の頭を越えると、花のプロムナード。フォトジェニックな花はないか、探しながら の行程になるため、とたんに足が鈍る。1時間ほどすると、待ちかねたようにガスが上が ってきた。  御舎利山を左に巻くと、市ノ瀬に向かう千振尾根との分岐点で、道の傍らに岩小屋があ る。入り口に風除けの石を積み上げるなど、なかなか凝った造りだが、屋根を支える横木 が腐っていて、とてもここで一夜を過ごす気にはならない。


早くも秋の気配,ハクサントリカブト

 花がネバネバのネバリノギラン

白山といえばこれ,ハクサンフウロ

8時5分、別山(2399m)到着。山頂は霧の中だ。尾根は南に下っているが、このコースは 古くは岐阜県白鳥町の長滝白山神社を起点とする美濃禅定道であり(禅定道とは白山山頂 にいたる信仰の道で、ほかに越前禅定道、加賀禅定道がある)、別山平の御手洗池には往 時の宿泊所の石垣が残るという。  カスミを喰っても、腹はふくれない。大屏風が眼前に迫る花畑の脇で朝食にする。しか し今にも降り出しそうな空模様で、ゆっくり休む気分になれず、早々に下山にかかること にした。  下りといってもいくつかのアップダウンがあり、登りになると、行きには見過ごしてい た花が目につく。逆に、行きに見つけたハクサンシャジンは、もっといい状態のものがあ るだろうとシャッターを切らなかったが、下りにはそれさえ見過ごしてしまった。撮影ポ イントを見つけるのは、登りに限るらしい。


雪解けのあとに,ハクサンコザクラ

ミソガワソウ,味噌川は木曾川の支流

 南竜ケ馬場着、10時20分。高度が下がったせいか、いくぶん明るくなったようだ。つい 最近まで雪が消え残っていたと思われる沢筋には、ハクサンコザクラが群生。咲き遅れた チングルマの姿も見える。センターに戻ったら、またもやビール。ほろ酔い気分で図鑑を めくり、見てきた花の名前を確認する。  昼を過ぎても、依然として青空は見えない。試みに電話で嶺北(福井)地方の天気予報 を聞いてみると、「夕方から雷雨、明日は雨」という。天気予報に外れはつきものだが、 外れに賭けるには、いささか分が悪い。御前峰はあきらめて、下山することに決めた。 テントを撤収し、13時半に南竜ケ馬場を出発。途中、別当覗きで一本立てる。別当出合の 吊橋を渡るころにポツポツ始まった雨は、駐車場に着くと同時に激しい雷雨になった。滑 り込みセーフである。


付記
『軽量化のこと』
 2年ほど前から体調が悪く、荷物を背負った山には中アの空木→越百以来、行っていな
い。これといった運動もせず、体重は増えるばかりで、山登りの自信をなくしていた。調
子が戻ったので登山再開をもくろみ、まず浮かんだのが白山である。ここなら、テント場
までの3時間余りを何とかできれば、あとは空身の山行が可能だ。それに別山は、いわば
やり残した山でもある。
 テント場までたどり着くには、荷を軽くするしかない。まずはテント。軽くて小さいや
つが必要だ。ところが、1人用のゴアテントを買ってきて改めて建ててみると、あまりに
も狭い。縦走ならいざ知らず、定着がこれではいかにもきゅうくつだ。結局、先年黒部・
上の廊下に持って行った3人用の軽量テントにすることにした。フミャフニャで頼りない
が、仕方ない。
 次に食料。さかいやでアルファ米をはじめ乾燥食料を買い集め、スーパーでビーフジャ
ーキーや乾燥ワカメを調達した。酒はウィスキーのみ(500cc)。ヘッドランプも、軽くて
小さいやつを新調した。付属のLEDランプを使えば単4・3本で150時間はもつというから、
これでランタンも不要になる。
 コンロも小さいのが欲しかったが、これは断念。コッヘルはチタンの1人用をふんぱつし、
水筒はオジサン流のソフトタイプを購入。カメラのレンズも、性能は劣るが格段に軽い標
準ズームに替えた。
 それやこれやをザックに詰め込んでみると、19kgチョット。これなら何とかなりそうだ。
とはいえ、いざ歩き出すとき、車に積んでいたビールを3本、ザックに放りこんでしまった。
こればかりは、いわゆる別勘定ということで……。


『花のこと』
 花の時期としては1週間〜10日遅く、多くは盛りを過ぎていた。以下、出会った花たち
(むろん名前のわかったものだけ)。
 シモツケソウ、チングルマ、ゴゼンタチバナ、ミヤマキンポウゲ、コバイケイソウ、
バイケイソウ、ヨツバシオガマ、エゾシオガマ、ハクサンコザクラ、
ミヤマダイモンジソウ、イブキトラノオ、アオノツガザクラ、ミヤマオトギリソウ、
クロユリ、ハクサンボウフウ、オタカラコウ、カラマツソウ、モミジカラマツ、
ミヤマキンバイ、シシウド、ハクサンイチゲ、ハクサンフウロ、ニッコウキスゲ、
シラタマノキ、タカネナデシコ、タカネマツムシソウ、ウメバチソウ、
ミヤマダイコンソウ、ミヤマタンポポ、イワギキョウ、タテヤマウツボグサ、
ウサギギク、ミソガワソウ、ネバリノギラン、ハクサンオオバコ、ホソバコゴメグサ、
アキノキリンソウ、シナノオトギリ、ミヤマコウゾリナ、タカネヨモギ、
ハクサンチドリ、カライトソウ、ノリクラアザミ、ハクサントリカブト、
オヤマリンドウ、ミヤマリンドウ、ミヤマホツツジ、イワイチョウ、ハクサンシャジン


『温泉のこと』
 山を下りたら市ノ瀬の白山温泉に入って駐車場で泊まり、翌日は永平寺に参って(わが
家は曹洞宗永平寺派ということになっている)、佐久に向かおうと考えていた。市ノ瀬の
観光センターで白山温泉の所在を尋ねると、目の前の永井旅館がそれだという。しかし、
入浴できるかどうかはその日の客次第だというので、ここはカット。この手の風呂に興味
はない。
 そこで根上さんから聞いた白峰の総湯のことを聞いてみると、白峰より少し下った桑島
の総湯(公衆浴場のこと?)のほうが新しいし、駐車場も静かで寝るにはいい、とのこと。
行ってみると、桑島地区は手取ダムの流入口に当たり、橋を渡ると正面に白峰中央公民館
というのがある。総湯は、その付属施設なのだ。
 重曹泉の風呂は小さ目だがきれいで、石鹸・シャンプーはないがドライヤーはある。料
金300円。湯上りに川向こうの酒屋でビールを仕入れ、車のシートを倒して寝場所を作る。
雨は、降ったり止んだりだ。
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