大森武志 2013年11月20日〜21日

                                      Photos by T.Omori


 酉谷山から南西方向には、雪を頂いた富士が大きくそびえていた

 先週、赤岩尾根から奥秩父の連山を眺めたとき、今度はあそこに行こうと心に決めた。 思い浮かんだのは三条の湯まで車で入り、翌日、雲取から飛龍を回って元に戻る周回コ ース。ところが調べてみると、三条の湯に通じる林道が崩落の補修工事で通行止めだと いう。  そこで、かねて気にかかっていた長沢背稜を歩いてみたいと思ったが、こちらも大ダ ワ林道と小川谷林道のコースが通行止め。やはり原因は、先年の豪雨と東日本大震災に よる崩落だ。そうなると、雲取山を越えていくしかない。  宿泊は頂上の避難小屋を検討したが、最低気温はマイナス10℃を下回ると聞いて、雲 取山荘に泊まることにした。小屋泊まりは不本意だが、今年の山らしい山はこれがラス トチャンスとなれば仕方がない。

20日(水)晴れ  奥多摩駅前発9:40のバスに乗る。平日だというのに増便を含め超満員で、ほとんど は中高年のハイカーだ。鴨沢バス停前のベンチで支度を整え、10:30出発。20分ほどで 舗装道路に合流し、少し進むと左手に登山道の入り口が見える。しばらくはスギやヒノ キの薄暗い植林帯の中を、緩やかで単調な道が続く。  林の中の水場(水量は十分)を通り過ぎ、12:30大きな腰掛け石のある日当たりのい い所で最初の休憩。12:50堂所(お堂は見当たらない)を通過。やがてブナ坂への道を 分けて七ツ石小屋の方向に進み、13:50七ツ石小屋に着いた。目の前に富士山。宿泊は 素泊まりのみで3500円と手頃だが、いまバイオトイレを造っていて、これができれば値 上げするのかもしれない。

 褐色に装う雲取山

 14:05七ツ石小屋出発。10分ほどで鷹ノ巣山に続く石尾根縦走路に合流し、14:30七 ツ石山(1757m)に到着。15:15奥多摩小屋。テント場にはテントが1張。若いやつは 元気だ。16:05やっとの思いで雲取山(2017m)の頂上に着いた。まだ陽は沈んでいな いが、避難小屋の寒暖計はすでに-2℃。中には登山者が1人、シュラフに潜り込んでい た。写真を撮ってから雲取山荘への下りにかかるが、道には凍った雪が残っていて歩き にくい。

 夕暮れの雲取山山頂、気温は氷点下

 16:50雲取山荘。小屋の周辺にも雪。部屋は個室で豆炭の炬燵もあるが、自炊場所は 外のプレハブ小屋で、水場は凍結しているので中の炊事場まで水をもらいに行かねばな らない。  自炊小屋には灯油ストーブが置かれていて、意外に快適。先客が2人。女のほうがお しゃべりで、結婚から離婚までの顛末を、聞くともなく聞かされてしまった。豆サラダ、 豚の生姜焼き、カレーライス(いずれもレトルト)に焼酎のお湯割りで夕食を終え、19 :00過ぎには部屋に戻る。布団を敷いて炬燵に足を伸ばすと、たちまち眠りに落ちた。

21日(木)晴れ  4:00過ぎに目が覚めたが、当然、外は真っ暗。窓の外には、遠く地上(青梅あたり から都心にかけて)の灯りが瞬いている。地図によれば今日はルート時間が9時間を超 える長丁場だが、かといって暗い道は歩きたくない。

 美しい夜明け前の空、街はまだ目覚めていない

 6:20日の出を待って雲取山荘を出発。北西の風が木々を揺らし、耳や鼻がちぎれそ うだ。大ダワを通過し、7:00三峰神社に下りる道との分岐に着く。いよいよ長沢背稜 の始まりだ。念のため、ザックにクマ鈴をつける。  いきなりの急登にあえぎながら、7:30芋の木ドッケ(1946m)に到着。東京都に限 れば最北の山で、標高は雲取山に次ぐ。ドッケは「突起」を表すらしいが、このあたり にはイモノキが多いのだろうか。樹林の中の頂上は寒いので、少し進んだ南向きの斜面 で休憩。  いったんシャクナゲの道を下り、登り返して8:55長沢山(1738m)に着く。セルフ タイマーで記念撮影。ここから30分余りの水松山(1699m)の頂で、右方向の赤布に導 かれて広い尾根を下りて行くと、どうも方角がおかしい。地図で確かめると、どうやら 天祖山方面に下る道らしい。引き返すしかない。ロスタイム20分、疲労感∞。

 頂上に戻ってよく見ると、左方向に踏み跡がある。下って行くと、指導票の脇に1人 の高齢登山者(70過ぎ?)が佇んでいた。何をしているのか尋ねると、インスリンを打 っていたのだという。そうしてまで山に登る熱意には頭が下がる。  右手に富士の頭を眺めながら進むと、10:30尾根が広く切り開かれた場所に出た。傍 らの看板には、滝谷の峰ヘリポートとある。ここで休憩。北西には両神山、その右後方 には浅間山を望むことができる。赤岩尾根は、両神山の陰に隠れているようだ。

 心静まる晩秋の縦走路

 歩きはじめてしばらくすると、赤いヘリコプターが飛んできて、ヘリポートの上でホ バリングを始めた。あとで調べてみると、ヘリポートは東京都水道局が設置したもので、 東京消防庁が山火事への対処や山岳救助等に使っているらしい。  落ち葉が降り積もった広い斜面では踏み跡を見失いそうになりながら、11:30酉谷山 への取りつき点に到達。巻き道もあるが、ここまで来て登らぬ手はない。しかし、この 25分はきつかった。11:55酉谷山(1718m)頂上。南西方向には、雪を頂いた富士が大 きくそびえている。

 酉谷山頂上

 頂上から10分ほど下ると、巻き道から来た縦走路に合流する。すぐ下には、真新しい 酉谷山避難小屋。下りてみると、手入れの行き届いた小ぢんまりした小屋で、5人ぐら いは何とかなりそうだ。小川谷林道への降り口は、ロープで閉鎖されている。水場は、 水流は頼りないほど細いが、酉谷山の側面から浸み出ている湧水で、枯れることはない のかもしれない。

 再び縦走路に戻る。ここからは尾根を回り込みながら緩やかな起伏を繰り返す道が延 々と続く。13:20七跳尾根への分岐から10分ほど歩いた開けた場所で1本。はるか眼下 には、秋の陽を受けたカラマツ林が黄金色に輝いている。明治30年代、この山域一帯を 水源地として山梨県から買い取った東京市が、大正から昭和にかけて盛んにカラマツの 苗を植えたと、何かで読んだ記憶がある。

 最後に三ツドッケ(天目山・1576m)に登り、14:25一杯水避難小屋に着いた。長沢 背稜を、端から端まで歩き通したことになる。少し休んで、ヨコスズ尾根の下りにかか る。この尾根は明るく開けた尾根という印象しかなかったが、実際にはかなりのアップ ダウンもあるし、片側が切れ落ちた巻き道も長々と続く。枯葉の道はやがてスギやヒノ キの植林帯に変わり、16:10東日原のバス停に着いた。


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