大森武志 2013年11月14日

                                      Photos by Z.Suzuki



 赤岩岳

 赤岩尾根は西上州、群馬・埼玉の県境にゴツゴツした岩峰を連ねる尾根で、八丁峠を経て 東南に稜線をたどれば両神山に至る。ずいぶん前に登ったことはあるが、アプローチの記憶 が曖昧なので善さんにメールで問い合わせたら、一緒に行ってもいいという。この2日ばか りは好天が続きそうなので、急きょ出かけることにした。

 5:30善さんが車で迎えに来る。柏ICから関越・花園ICを経て、国道140号で秩父を目 指す。途中、299号に入って小鹿野を経由し、志賀坂トンネル入り口で八丁峠に向かう林道に 入った。ここからはヘアピンカーブの連続で、しだいに気分が悪くなってくる。ようやく八 丁坂トンネルを抜けて、8:15落合橋(標高1150m)に到着。10台ほどの駐車スペースがあ り、すでに3台がとまっている。

 すぐに支度をし、登山口まで林道を下りはじめた。肌を刺す冷たい空気(おそらく氷点下) の中をゆっくり歩いているうちに、車酔いが少しずつ回復していく。9:00ニッチツ社宅前 (950m)に到着。社宅といっても住む人はなく、すっかり荒れ果てている。とはいえ株式会 社ニッチツ(旧・日窒鉱業)は今もこの地域で結晶質石灰石と珪砂(質と埋蔵量は日本有数 とか)を採掘しており、重質炭酸カルシウムやシリカ、リシンなどを造っているらしい。

 赤岩峠にて

 廃屋群を進んでいくと「群馬県上野村ニ至ル」と記した古い石標が立っていて、ここから 登山道が始まる。しばらくはヒノキの植林帯の中を、ジグザグに登っていく。やがてクヌギ やナラなどの広葉樹に変わり、枯葉に埋もれた踏み跡をたどると、赤岩峠(1400m)の小さ な祠が見えてきた。

 赤岩岳の登り

 小休止の後、10:30いよいよ岩稜縦走の開始だ。眼前にそびえる赤岩岳は左からルンゼを 詰め、岩稜に取りつく。頂上に出ると、雄大な展望。東に両神山、南に雲取、飛龍、甲武信、 さらに国師、金峰へと続く奥秩父の連山。西方には八ヶ岳や、白銀の北アルプスが一望のも とだ。雲一つない快晴で風もなく、絶好の登山日和である。

 いったん下って痩せ尾根を進み、いくつか小ピークを超えると、1583m峰の大岸壁が迫っ てきた。鞍部から少し右に回り込み、ぶら下がっているロープを目印に岩に取りつく。高度 感は十分だが、ホールドもスタンスもしっかりしている快適なルートで、多少の高揚感とと もに終了。善さんによれば「核心部はここまで」とか。少々もの足りない気分だ。

 群馬側に切れ落ちた岩を下り、さらに進んで岩稜を右から巻くと、木立の中にP4の標識 があった。このルートにはP1〜P4と名づけられたピークがあるが、その根拠はよくわか らない。遠くから見るとこの4つの峰が際立っているのかもしれないが、実際に登り下りし てもその実感はない。

 P3の登りにかかると、チムニー状の岩壁が現れた。さしたる高さはないが、ほぼ直角に 交差した出口の壁が厄介そうだ。確実なホールドが見当たらないので、両手両足を突っ張り、 肘も使って何とか乗り越える。ここがコース一番の難関だろうと、2人の意見が一致した。

 あとはまた、木の根にすがり、岩を抱いての岩稜歩き。あまり緊張感はないが、体力は確 実に消耗していく。期待していた紅葉も、やはり遅かった。ひと月前なら赤い葉が岩肌に映 えていたであろうツツジやウスゴも、茶色の枯葉に変わっている。前方に真新しい切り株が 見えたのでその方向に進むと、やがて切れ落ちた断崖に行く手を阻まれ、もと来た道を引き 返す羽目になった。意味なく木を切った輩は、本来のルートに赤布をつけておくべきではな いか。

 コース最後のピークP1(1589m)も眼前に迫り、八丁峠も間近とみえたところで、とん だ失敗をしてしまった。赤布もついた明瞭な踏み跡に導かれ、P1の頭をスルーしてしまっ たのだ。これは完全な巻き道だと気づいた時には後の祭。「テラス状の頂は最高の気分なの に」と善さんは残念がったが、引き返して登り直す気にはならなかった。

 14:10八丁峠(1500m)に到着。10人ほどの登山者で賑わっていたので休憩はとらず、そ のまま下りにかかる。明るい広葉樹の林の中をどんどん高度を下げ、14:50落合橋に帰着。 時間があれば八丁峠から両神山を目指すつもりだったが、赤岩尾根だけで十分に満ち足りた 気分で、たぶん体力的にも余裕はなかった。

 帰りは、沢沿いの林道を秩父側に下りていく。ニッチツの採掘場(稼動中)を過ぎて右に 三国峠への道を分け、中津川村に入るあたりから、両岸は鮮やかな紅葉に変わった。さらに 下って国道140号と合流すれば、秩父の町はもうすぐだ。


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