大森武志 2012年09月18日

                                 Photo by T.Omori



 ご存じ地蔵岳オベリスク

日程:2012年9月13〜15日
 往きはアクシデントの連続だった。常磐道の三郷を過ぎたら大渋滞。堀切での事故で、いつもなら
15分ほどの小菅まで110分かかるという。仕方なく外環に迂回。美女木あたりまで来ると、今度は加
平で事故との交通情報。さらに竹橋から新宿を通って高井戸あたりを走っていたころ、赤坂トンネル
で事故が発生。
 まだある。談合坂SAを過ぎるとルートが2つに分かれるが、それが合流して間もなく、路側帯で
トラックが燃えている。追い越し車線は通れたが、車内でも熱を感じるほどだった。間もなく笹子ト
ンネルの手前で、上野原・大月間が通行止めになったことを知る(20:00にようやく解除されたらし
い)。首都高での事故といい、中央高速での車両火災といい、まさに間一髪ですり抜けたことになる。
 そのうえ芦安も近い山中の道で、路上にうずくまっているものがある。対向車も後続車もなく、か
なりスピードが出ていたので間に合わなかった。猫より大きかったので、狸かもしれない。可哀そう
なことをしてしまった。夕立で路面が濡れていたので、急ブレーキを踏んでいたらどうなっていたこ
とか。
 それやこれやで、夜叉神峠駐車場に着いたのは19:30。平日だというのに、8割方は埋まっていた。
車の中で独り宴会をやり、21:00就寝。意外に気温が高く、窓を2cmばかり開けて寝る。


13日(木)晴れのち曇り

 4:30起床。あたりはまだ暗く、懐中電灯を出すのも億劫なので、明るくなるのを待って5:30出 発。20分ほど歩いて、車の窓を閉め忘れたことを思い出したが、仕方がない。6:35夜叉神峠(1770 m)に到着。北岳、間ノ岳、農鳥山の白根三山が一望のもとだ。四半世紀ほども前、ニューズウィー ク日本版が創刊されて間もなく、編集部の仲間とここに来たことがある。今は亡き浅野編集長や南さ んの顔を懐かしく思い出す。確かあのときは芦安に泊まり、翌日は尾白川渓谷やサントリーの白州醸 造所に行ったはずだ。

 夜叉神峠からは、いきなりの急登。風もなく、一気に汗が噴き出す。30分ほどで傾斜は緩やかにな り、シラビソ、コメツガ(この手の樹木はこれしか知らない)の林間の道をたどる。8:10杖立峠を 通過。  8:55、2300m地点の広場で休憩。それにしても、このあたりの指導標はいい加減だ。杖立峠では 「苺平まで2時間40分」とあったのに、そこから1時間のここでは「苺平まで40分」となっている。 しかも指導標は同じ造りで、建てたのは同一人物(グループ)と知れる。

 9:40苺平を通過。10:15南御室小屋に到着した。ここで水を補給し、しばらく休憩する。鳳凰三 山〜早川尾根には、要所要所にいい水場があって助かる。10:45南御室小屋を出発して、11:35森林 限界(2630m)に到達。天気予報は晴れだったが、南の湿った風が大量のガスを発生させ、白根三山 は完全に雲の中だ。  脚がだんだん重くなってくるころ、12:10薬師岳山頂(2780m)に着く。ウラシマツツジはほぼ紅 葉、ナナカマドの実が赤い。花崗岩の風化した白砂の中に、南アルプス固有のタカネビランジ(白花 も?)が、岩陰には鳳凰三山特産種のホウオウシャジンが咲き残っている。あたりはガスで閉ざされ ているが、ここまで来たかいがあった。


 南ア固有のタカネビランジ

 鳳凰三山特産のホウオウシャジン

 12:45観音岳(2840m)に到着。予想より速いペースで登ってきたので、予定を変更して早川小屋 まで足を延ばそうかとも思ったが、地図ではここから約4時間。やめておく。 下り30分ほどで、14:30に鳳凰小屋着。だいぶん前から下手なオカリナが聞こえていて、着いてみ たら若い娘が練習中だった。「雑音だったでしょう」と言うから「いや騒音だ」と言ったら、すこし ムッとした様子。それでも後で、「今度までにもっと練習しておきます」と言いにきた。小屋の周囲 ではあちこちにヤナギランが群生しているが、オカリナ娘によれば「ここには鹿が近寄らないから食 害を免れている」のだという。


 オカリナ娘

 ヤナギラン

 テントサイトは平坦に整地された砂地で、手入れが行き届いていて気分がいい。幕営料は1人800 円だが、鹿島槍冷池のサイト(500円)とどちらを選ぶかと言われれば、もちろんこっちだ。ちなみに、 鳳凰小屋は昔の印象が最悪で、いまだに私の評価はワーストワン(ベストは白い布団カバーやシーツ に日向のにおいがした北ア薬師小屋か)だが、テント場とオカリナ娘に免じて今回は何も言うまい。

 テント設営後、小屋の横のテーブルの一角を占め、夕食と独り宴会にかかる。したたか呑み、17: 30過ぎにはテントに倒れ込んでしまった。しかし21:00になっても眠りに落ちない。ノンレム睡眠の 訪れは疲労度と関係なく、体内時計によって別管理されているのだろうか。

14日(金)晴れのち曇り

 4:30起床、5:40出発。1時間ほどで地蔵岳(2764m)に着く。昨日とは一転、北寄りの風が強 く、長袖のシャツを出す。オベリスクには何人かとりついているようだが、今日は行程が長いので先 を急ぐことにする。

 早川尾根は鳳凰三山の尾根と比べはるかに人が少なく(この日、出会った登山者は2人のみ)、花崗 岩の静かな道が続く。甲斐駒も北岳も、遠く八ヶ岳も遮るものがない。コケモモやクロウスゴの実を ついばみながら進み、8:10高嶺(2778m)を通過。9:00に白鳳峠に着いた。以前、晩秋に梓でこ の道をたどったことがあったが、あのとき広河原に下りたのはこの峠からだったのか、それとも次の 広河原峠からだったのか。記憶が定かではない。


 甲斐駒ケ岳(早川尾根から)

 北岳(同)

 赤薙沢の頭を越え、小さなアップダウンを繰り返す。このあたりの植生はシラビソ+コメツガとき どきダケカンバ、たまにシャクナゲといったところで、奥秩父とよく似ている。しかし奥秩父ほど鬱 蒼としていないので、木漏れ日が差す程度に陽ざしを遮ってくれ、快適な尾根歩きが楽しめる。10: 05広河原峠を通過。甲府側から上がってきた雲が、野呂川方面に流れ下っていく。ここから仙水峠ま では、間違いなく未踏区間である。

 10:45早川小屋に到着。水を補給し、休憩。小屋は古いが、清潔そう。屋根で毛布干しの最中だっ たが、大音量のハードロックはいただけない。小屋からは急登が続き、結構しごかれる。11:50休憩。 両側から雲が上がってきて、何も見えなくなった。やはり、絶景は午前中のみか。

 アサヨ峰への登りは、岩につかまりながらの急登。それが終わるとハイマツ帯になるが、枝が伸び ていて踏み跡がわかりにくい。ヤブ漕ぎ状態のところもあった。13:35アサヨ峰(2799m)に到着。 誰もいないので、セルフタイマーで記念撮影。14:45栗沢山山頂(2714m)。アサヨ峰からここまで は岩稜帯で、晴れていれば3000m級の山々を望みながらのプロムナードらしいが、今日はひたすら岩 の踏み跡をたどるばかり。

 アサヨ峰で

 栗沢山から仙水峠までは、標高差400mを一気に下る。足も膝をガタガタだ。さらに仙水峠からは、 歩きにくいガレ場が延々と続く。甲斐駒に登るなら仙水小屋のテント場もアリだと思っていたが、ま たこの道を往復すると思うと嫌になった。やはり、明日は仙丈だ。なんてったって3000m峰なんだか ら。

 17:10北沢のテント場に到着。鳳凰小屋を出てから11時間半。長かった。このテント場は北沢駒仙 小屋(以前の北沢長衛小屋で、長衛荘と紛らわしいということで改名したらしい)が管理しているが、 河原をブルドーザーでならした程度のだだっ広いスペースだ。幕営料は500円で、ビールの自販機が 設置されている。北沢駒仙小屋はいま改築中で、相当豪華な施設になるもよう。すでに長衛荘はホテ ルと化しているが、駒仙小屋もその線ねらいだろう。  テント設営を終わって沢水で体を拭き、切り株に渡した板を食卓にして独り宴会スタート。19:00 過ぎにはテントに潜り込む。

15日(土)晴れ

 4:00起床。満天の星空。4:30ヘッドランプを点けて歩きはじめる。秋も曙である。ようよう白 くなりゆく山際に、北岳の鋭角的なシルエットが浮かび上がる。仙水峠が赤く染まってきた。3合目 通過が5:40。ゆっくりしたペースだ。

 小仙丈から早川尾根遠望

 7:20小仙丈岳(2855m)に到着。360度の展望で、眼前に仙丈岳。風が強いが、野呂川渓谷にはす でに雲がわきはじめている。8:40仙丈岳(3032m)頂上。ピークへの取り付きで、昔、積雪期に登 った記憶がよみがえった。しばらく休んだ後、馬の背方向に下りることにする。頂上直下のカールに あった仙丈避難小屋は、立派な営業小屋に変わっていて、生ビールまで商っている。


 仙丈岳(小仙丈から)

 仙丈岳山頂で

 10:10馬の背ヒュッテ。ここからは、まだ通ったことのない大平山荘コースをたどる。しかし前半 は沢通しの道で、高巻きやヘツリもあって楽ではない。一部には雪も残っていた。沢筋を外れると、 樹林帯の中を急降下。最後は原生林の道を抜けて、大平山荘に着く。昔は平屋だったが、今は2階建 ての新館が増築され、ここも繁盛しているようだ。北沢峠まで登り返し、12:45テント場に帰り着い た。広大なキャンプサイトは100を超えるテントで埋め尽くされ、昨日とは様相を一変。気がついたら、 世の中は今日から三連休だ。

 広河原行きのバスは15:30までないので、ゆっくりテントを撤収し、ビールを飲んでから北沢峠の バス乗り場に向かう。長衛荘で、ビールをもう1本。やがて広河原からのバスが到着し、すぐに折り 返して15:00に発車した。広河原からは乗合タクシーで、16:05夜叉神峠駐車場に到着。タクシーの 運転手に紹介された白峰会館を見逃してしまい、芦安からかなり下った天笑閣という、怪しげな温泉 (地元民の銭湯といった感じ)で汗を流す。帰りは、アクシデントこそなかったものの大渋滞に巻き 込まれ(ブドウ季節の中央高速はいつもこれだ)、柏に着いたら22:00を過ぎていた。

出会った花々(思い出すままに) タカネビランジ、ホウオウシャジン、ヤナギラン、イワツメクサ、ミヤマトリカブト、 ミソガワソウ、タカネグンナイフウロ、オヤマリンドウ、トウヤクリンドウ、ミヤマコゴメグサ、 ハクサンシャジン、ミヤマアキノキリンソウ、ミネウスユキソウ
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